▼各地で節分行事の鬼やらいが行われる中、桑名市の伊藤徳宇市長が赤鬼に扮して児童らに誘拐などの犯罪に巻き込まれないよう注意を呼びかけていたが、強く、恐ろしい鬼がマスクをしているというが、豆に追われて逃げる滑稽を思わせた。マスクの着脱に迷う行政を象徴してもいようか
▼日本のマスク着用の習慣が世界でも並外れていることはコロナ禍で立証されたが「竹の花が咲くと流感が流行る」などの俗説が戦前にあり、マスク利用が進んだ理由の一つという。物理学者寺田寅彦は「御馳走を食べ過ぎると風邪をひく」という俗説を紹介している。大口を開けてごちそうを食べているとそれだけ風邪も口から入ってくるのかもしれないと考察し、背景に粗食を推奨する文化があるとしている
▼「街にマスク人種と非マスク人種が存在する」とも記している。マスクで完全防御をしていると抵抗力が弱まり、取った瞬間、住民はひどい目に会いはしないか、と続ける。そう思うと、「うっかりマスクを人にすすめることも出来ない。それかと云ってマスクをやめろと人に強いる勇気もない」
▼国はコロナの「五類」移行で「マスクなし卒業式」を検討しているという。移行の正当性を広める格好の舞台だが、着用を決める学校もあり、現場に混乱もある。国は五類移行でマスクは個人の判断としたが、卒業式も、マスクなしを強制することはないという
▼寅彦がマスクについて『変な話』で書いて90年。「天災は忘れた頃にやってくる」は今に残る寅彦の警句だが、マスクの着脱はいまに残る寅彦の逡巡と言えようか。