伊勢新聞

2023年1月31日(火)

▼卓球の全日本選手権の男子シングルスで二連覇を果たした戸上隼輔選手=津市出身=は右手を高々と上げた。優勝インタビューでファンへのメッセージを求められ「皆さん、元気ですか」と故アントニオ猪木さんの決め台詞(ぜりふ)を口にした。プロレスの大ファンで、優勝してこのフレーズを言いたいと心に決めていたという

▼パリ五輪へのポイントがダントツの第一人者、張本智和選手を決勝で終始圧倒した。セットカウント一対一の同点にされて迎えたサンセットはマッチポイントを四回繰り返す大熱戦となったが「死ぬ気で頑張る」と食らいついて制した

▼同じ二連覇だが勝利の瞬間、戸上選手は吠(ほ)え、女子シングルスの早田ひな選手は泣いた。劇的逆転勝利だったこともあるが、準々決勝、準決勝ともに優勝経験者を破っての決勝進出。本命視される重圧とも戦ったのに対し、戸上選手の「優勝できるとは思っていなかった」というのは本音ではなかったか

▼「二連覇したのかなと疑心暗鬼」は、何が何でも優秀をという挑戦者の気持ちを持ち続けていたということでもあろう。守りの動きが見られる張本選手に対し、戸上選手はあくまで果敢に攻め、思い切った技の繰り出しが好結果を招き入れたようにもみえる

▼前回優勝しての一年は、必ずしも満足できるものではなかったといわれるが、二連覇でパリ五輪へのポイントも三番目につけた。これからが過酷な代表争いレースが始まる。今回の四強の中では最年長の21歳。絶対王者水谷隼選手引退の後「自分が日本を背負う」と言った昨年の決意の実現を応援したい。