「あなたの車、現金にて高価買い取ります」。このようなことを書いたチラシが、自動車のワイパーなどに挟まれていたことはないだろうか。車の買い取り業者が挟んだとみられるが、私有地の駐車場に無断で侵入する行為は容認できず、貼られたチラシを放置すれば車の盗難にもつながりかねない。記者も数年前から愛車にチラシを挟まれ続けている〝被害者〟の一人だが、チラシに書かれた番号に電話をしても解決せず。不法侵入に問うことも難しいといい、結局は盗難対策を施すしか手だてはなさそうだ。
「またか」。昨年末、津市内にあるアパートの駐車場。記者は、はがきサイズのチラシが愛車に挟まれているのを見つけた。チラシには電話番号や会社名、ライン登録用のQRコードなどが書かれていた。
この行為、今に始まったことではない。少なくとも2年前から同様のチラシや名刺を10枚ほど貼られてきた。ワイパーに挟むだけでなく、テープで貼られたケースも。大手中古車販売店を装ったものもあった。
「無断でチラシを置かせていただいたことを、ご容赦ください」「買い取りでの迷惑行為は一切行いません」という記述もあるが、そもそも駐車場に無断で立ち入るということ自体に憤りを禁じ得ない。
不法侵入には当たらないのか。駐車場は郵便受けやインターホンのように営業活動を受け入れているわけではない。住民の意思に反しているなら「正当な理由なく」という住居侵入罪の構成要件を満たすはずだ。
ただ、複数の警察官に尋ねてみたところ、事件として捜査するのは難しいとの見解だった。明らかに犯罪を目的とした立ち入りでない限り、警察としては「正当な理由がない」とは判断できないという。
また、仮に立ち入り禁止の看板などを駐車場に掲げたりしても立ち入りが繰り返される場合は「違法性が高まると考えられる」(警察関係者)が、それでも罪に問うのは「現実的には難しい」という。
■ ■
仕方がない。こうなればチラシを貼った本人に今後は立ち入らないよう依頼するしかない。これまでに貼られていたチラシの中から1枚を取り出し、書かれていた番号に意を決して電話をかけることにした。
電話に出た男性とのやりとりは残念な結果だった。男性は「外国から来た」と明かすも、その後はこちらの住所を尋ねるばかり。駐車場に立ち入らないよう求めたが、一方的に電話を切られてしまった。
車への張り紙は全国で多発している。SNS(交流サイト)では「放置すると窃盗団の目印にされる」との書き込みが目立つ。窃盗目的と断定するのは性急だが、確かに盗難の「予兆」と認識すべきだ。
「できるだけの対策をして盗難のリスクを減らしてほしい」。記者は県警生活安全企画課の担当者から、そうアドバイスを受けた。後付けのハンドルロックなどで「見える対策」を施すのが効果的という。
「思い返すと、あれが盗難の予兆だった」と話すのは津市内の50代男性。6年前、自宅に止めてあった国産の高級SUVを盗まれたが、数週間前にドアの鍵穴にこじ開けた跡を見つけていたという。
さらに、その数日前には自宅を訪ねた買い取り業者に「車を売ってほしい」と頼まれていた。男性は「それだけ車を見られていたということ。何らかの対策をしておけば良かった」と悔やんでいる。