伊勢新聞

2022年12月31日(土)

▼自衛官だった知人の息子が退官した。30代半ば。親戚の農地を借りて農業を始めた。その成否が気がかりでも、退官自体に、知人も異論はなさそうに見えた

▼親の影響か、幼いころから剣道を始め、就職は先輩らの引きで警官か自衛官かと迷っていた。自衛官が本決まりとなった時、知人にはホッとした表情が濃かった。時代は、イラク戦争の後方支援や、東日本大震災の救助活動へ。出発を見送るなどしながら、親の会に漂う不安を聞かされた

▼退官理由は分からない。語りたがらないというより、子どもから詳しく説明されたわけでもなかったかもしれない。ただ、幼い孫が将来何になりたいかの話になり、パイロットと答えたら、息子は「ダメだ」と即座に否定したそうだ。大空を舞うパイロットの物語はテレビでも人気ジャンルの一つだが、息子の頭には、パイロットと航空自衛隊が直結したのではないか

▼ロシアのプーチン大統領は国営放送のインタビューで「国民の99・9%は喜んですべてをロシアに捧げる心構えができている」と、兵役対象の若者の大量国外脱出を否定した。士気の高さが伝えられるウクライナも、国外逃亡の若者は少なくないらしい。日本では、世論調査で防衛費増が多数を占めた。敵基地反撃能力も同様

▼勇ましいが、増税は反対多数。岸田政権の支持率も低迷の一途。必要性は認めるが、自分が関わるのはまっぴらということか。自衛隊の入隊志願者は減り続けているようだ

▼戦後77年、戦争の記憶は風化したが、ロシア、ウクライナの兵士や親たちを思いながら今年は暮れる。