伊勢新聞

2022年12月29日(木)

▼日本漢字能力検定協会の今年の世相を表す漢字は「戦」だった。一見勝之知事が今年を表す一字に選んだのは「復」。市民と為政者の違いが分かる気がした

▼「戦」とは時節柄物騒な言葉で、一年の締めくくりくらい穏やかで将来に希望の持てる言葉を選べないかとも思うが、僅差の2位の一字が「安」。安全安心の願いもあるが、異常気象や円安などの不安も太宗をなしている

▼一見知事の「復」は、復調の兆しという。「観光や宿泊など、それぞれの業界で経済的に潤い始めている」。おやそうなのか、という思いが多数ではないか。「復」で連想するのは冬至の別称「一陽来復」だろう

▼年に一番夜の長い日。これから一日ごとに昼が長くなるが、冬至直後のクリスマス寒波は厳しかった。「一陽来復」は冬が去り春が来るの意で、転じて新年が来ること。悪いことが終わり、ようやく好運に向かう意味もある。知事はむろん意識しての選択だろう

▼県民の思いはともかく、知事がそう願っている、そう思いたいことはよく分かる。「今年もコロナの対応で多忙を極めた」と振り返る。死して後やまんを信念とする知事だが結果、見るべきものがなかったとは思いたくないに違いない

▼病床使用率が50%を超えたが、お約束の「医療ひっ迫宣言」などの新たな対策は見送った。おなじみの「直ちに出さなければならない状況ではない」らしい。冬至にはカボチャを食べる。別名はなんきん。栄養価は高いが、「ん」が二つ入る食物が運を呼ぶとして好まれた。あやかりは、知事だけでなく、日本人共通の心象風景である。