伊勢新聞

2022年12月14日(水)

▼二兎を追う者は一兎をも得ず、あるいは虻蜂取らずのことわざを思い浮かべ、吹き出した向きもあるのではないか。首都圏営業拠点「三重テラス」の新年度の運営について、野呂幸利雇用経済部長が「もうけることと発信を両立させたい」と議会で言ったことだ

▼県の発信力については、コロナ対策を呼びかける一見勝之知事の「アナウンス効果」の成果はともかく、投票率向上啓発は散々の出来で、東日本大震災以降の県民の地震への危機意識が低下していることに防災企画・地域支援課が危機感を示したばかり。同大震災の翌年に防災対策部幹部が嘆いていたことでもある

▼「二兎を追う者は―」は二つを手に入れようとしてどちらも失敗する例えだが、一羽を追う途中にもう一羽が現われ、そちらに気をとられたら、先の一羽が逃げ足を緩める。それっと向かうと、後の一羽が立ち止まる。その繰り返しでどちらも逃がしてしまう。まるで県の三重テラス運営だと言っては言い過ぎか

▼「もうける」という言葉が県職員から出るのも驚きだが、むろんもうけたためしが県にないことを承知の発言に違いない。採算への県議の懸念に対する回答だからだ。担当職員の削減や経費削減など、得意の事業縮小の案ばかりでもうけるアイデアは皆無。いかに解決を先送りにして、責任の所在をうやむやにしてしまうかの算段に着手し始めたのではないか

▼東京・日本橋の老舗百貨店さえ生き残りのために安売りで知られる家電量販店を入店させたのである。県なりに終わりへの始まりの戦略に踏み出すことに何の不思議もない。