三重県津市の前葉泰幸市長(60)が来年4月の統一地方選で実施される市長選に4選目指し無所属で出馬することを表明した。出馬会見では3期12年の実績を強調。その上で「県都の機能強化を第一番に掲げたい」と中心市街地の整備を推進し、県都としての姿を大胆に作り替えていく意欲を示した。一方、3期目には元自治会長による補助金詐欺事件が発生。元自治会長を巡る市職員との異様な関係性や不適切な対応も明るみになり、市政に激震が走った。
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「これまで培ってきた経験、人脈を駆使し、困難を伴う事業を実現して課題を解決してきた」。
元総務省官僚でもある前葉氏は出馬会見でこう語り、実績として大谷踏切の拡張、旧河芸町の堤防整備、中勢バイパスの4車線化、久居アルスプラザの整備などに尽力してきたと強調。平成18年の市町村合併後、課題が山積していた市政を軌道に乗せたと胸を張った。
津市は10市町村が合併し発足。面積は県内最大で、合併時、都市部の旧津市に吸収され、取り残されるとの危機感が旧町村から根強くあった。そのため、合併後に重点的に取り組まれてきたのが周辺地域の整備という。前葉氏は「各地域のさまざまな事業が進み、バランスの取れた発展がほぼ実現しつつある」と一定の成果を示した。
ただ、周辺地域に留意する一方で、衰退が顕著になったのが中心市街地。特にかつての繁華街だった大門地区は空き店舗が目立つ。アーケードを取り壊すなど活性化を目指してきたが、閑散とした姿が白日にさらされているとの声もあり、状況は好転していない。津駅前にしても県都の玄関口としては華やかさに欠ける。
こういった状況を踏まえ、前葉氏が4選に向けて真っ先に掲げたのが中心市街地の活性化だ。「まず『まちなか』の整備にあたる」と述べ、津駅周辺の立体交差化などを進め、東西のネットワークを強化することを強調した。
さらに昭和20年以降、大きく変化することのなかった大門・丸之内地区の再開発を進めるとし、「容易なことではないが、ここ(宿屋町=現東丸之内)で生まれ育った私として、80年ぶりのまちの姿を変えていく」と意気込んだ。
一方、3期目の中で最も市政を揺るがしたのが元相生町自治会長による補助金詐欺事件。そこで浮き彫りとなったのが、元自治会長と職員の異様な関係性。職員が元自治会長におもねる一方、土下座や丸刈りを強要させられたことなどが明るみになり、市民に衝撃を与えた。
前葉氏は県警OBを迎えて「内部統制室」を設置し、組織の統制や信頼回復に努める姿勢を見せた。が、「市役所がだまされて市民に申し訳ない」とコメントするなど、無責任とも取れる物言いに、職員からは当時「散々見て見ぬふりをしながら被害者面にあきれた」との批判を浴びた。
「頭は切れるが、身を挺して職員を守る姿勢が薄い」とするのが、津市を地盤とする議員評。同事件を受け、組織の長としての度量に疑問符が投げかけられた。
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「本来なら、自分がマイクを握っていたと思っていたのではないか」。昨年夏の知事選で高田本山専修寺前で行われた、当時候補者だった一見勝之知事の街頭演説。一見氏の傍らには、高田中学校で同窓だったという前葉氏、竹上真人松阪市長が応援に駆けつける姿があった。その光景を目撃した県議は前葉氏の心中をそう推察する。
長らく国政転出への野心を燃やしていた鈴木英敬前知事の後継として、前葉氏が筆頭候補の一人に挙がっていた。もともと宮城県知事選に出馬するなど知事への意欲はあったとされ、津市長はそのステップと見る向きもあった。
その野望を打ち砕いたのが相生町自治会問題と見られ、「あの問題がなければ出馬していたのではないか」(県議)とする政界関係者は多い。
前葉氏は今回の出馬表明を、前回の市議会12月定例会冒頭から一転、出身地でもある大門のホテルで行った。その理由について、「これまでとはまたひと味違う、フレッシュな前葉泰幸の新しいスタートの場所として選んだ」と結んだ。知事への思いを吹っ切り、市長職にまい進する決意の現れなのか。
県都のリーダーを決める津市長選は令和5年4月16日告示、23日投開票される。