伊勢新聞

2022年11月23日(水)

▼韓国・ソウルの繁華街梨泰院でハロウィーンの10月29日、詰めかけた群衆156人が圧死する事故が起き、警察のトップ、警察庁長の尹熙根氏は11月1日、警察の不備を認めるとともに「『泣いて馬謖を斬る』覚悟で真相解明に臨む」と、警察内部の責任に手を緩めることなく追及する決意を表明したという

▼引用した故事は中国・三国志から。蜀の丞相諸葛亮孔明が愛弟子馬謖の失策を許さず、泣いて斬った話で、岸田文雄首相に聞かせたいが、日本でも愛読者が多く、中国、韓国でも同様で文中の名言がよく引用される。中国が大干ばつに見舞われた平成七年、当時の国家主席・江沢民は「鞠躬尽瘁,死而后已」(きくきゅうじんすい、死して後やまん)と現地幹部らを激励した

▼これも孔明が魏に出陣するに際し皇帝に差し出した後出師の表からの引用。元は「鞠躬尽力」で、マリのように体を縮めて死ぬまで全力を尽くす、の意。中国の歴代の指導者が好み、日本の政治家にも人気。わが一見勝之知事も、座右の銘にこの言葉をあげる

▼本来は先帝の遺命実現に全力をあげるの趣旨だが、今や大義のためとでもなるか。続く「死して後やまん」は過労死に誘うと警戒されるようになり、一見知事はこちらは切り捨てて、使っていない

▼馬謖に責任を取らさざるを得ない手痛い敗戦を前の出陣で負い、大国に飲み込まれるのを座して待てないと、さらに分の悪い出陣に追い込まれ「死せる孔明、生ける仲達を走らす」で三国鼎立は終わりに向かう。華々しい最後を飾る悲壮な決意が、この言葉に込められている。