食品訪問配布で不登校対策も 鈴鹿のNPO「行政支援につながれば」

【居宅訪問で食料品が入った箱を手渡す山浦さん(左)=鈴鹿市内で】

子どもたちの居場所づくりに取り組む三重県鈴鹿市のNPO法人シャイニング(岡田聖子理事長)が、多子の一人親家庭を中心とした困窮世帯を対象に、4月から食品訪問配布事業に取り組んでいる。居宅訪問で不登校支援を兼ねるのが大きな特色で、子どもの居場所づくり事業部長の山浦久美子さん(50)は「成果は実感している。モデルケースとして広がれば」と話す。一方、行政支援につなげるための連携強化が課題となっている。開始から約半年、現状や課題を取材した。

同法人は子ども食堂や若者食堂の運営のほか、昨年から不登校の児童生徒を受け入れるフリースペースを確保し、子どもたちに学びの場を提供するとともに、体験活動や学習支援などに取り組んでいる。

山浦さんはフリースクールでの活動を通じて「困窮家庭の子どもが不登校とは限らないが、見過ごされているケースも多い。食料支援を通じてなら、自宅に行って声かけができると思った」と、不登校支援と食料支援を結びつけた経緯を説明する。

もともと食品配布事業は、コロナ禍で子ども食堂が中止になったことがきっかけで、2年前に始まった。これまでは受け取る側が会場に取りに行く形式で実施していたが、取り組みの中で「本当に困っている人は受け取りに来ることもできない」という声を受け、今年度は不登校支援に重点を置き、現在は市内の13世帯を2週間に一度訪問する。

山浦さん自身も小学生と中学生の不登校の子どもを持つ母親で「保護者と信頼関係を構築しながら、自然と子どもたちとも馴染めるのは大きい」と話す。配布スタッフも不登校経験者や不登校児の母親などで「当事者目線で寄り添えるのは大きな強み。経験者だから分かることもたくさんある」と力を込める。

支援が独りよがりにならないよう、定期的にスクールカウンセラーや市社協のコミュニティソーシャルワーカーらとの情報共有を図る。

山浦さんらの訪問がきっかけで、学校などに行けるようになったケースもこれまでに二件あるという。

今月7日、1軒の訪問先に同行。小学生の時のいじめが原因で、5年間不登校を続ける子どもと住む母親の家を訪ねた。

山浦さんらの訪問がきっかけで、子どもは3年ぶりに外出し、夏の花火大会に行くことができたという。山浦さんは「少し希望の光が見えてきたところ」と話す。

食品が入った箱を玄関先で手渡す山浦さんに、母親は体調のことや最近作った料理の話など、約1時間話した。学校への不信感も募らせており、時折怒りをにじませた。結局この日、子どもは奥の部屋にいたが、出てくることはなかった。

訪問を終え、山浦さんは「一人親家庭の母親は相談相手もなく孤独なことが多いので、食品を渡すだけでなく、話しを聞く時間は十分に取る。子どもとの距離も一進一退だが根気強く、少しずつ距離を縮めていくしかない」と話した。

市によると、令和3年度の市内小中学校の不登校児童、生徒数(速報値)は小学生146人、中学生212人の計358人。前年度は小学生78人、中学生126人で計105人増加した。市教委は「新型コロナウイルス感染症の影響が大きい。さまざまな生活様式の変化が間接的に子どもたちのストレスとなり、不登校につながっているのではないか」と分析する。

山浦さんは「食品訪問配布事業だけで全ての問題を解決することはできない。支援のはざまで困っている人たちをすくい上げ、うまく行政支援につなげていくことができれば」と話した。