伊勢新聞

2022年10月19日(水)

▼小林貴虎県議が巻き起こした一連の混乱で、あえて救いをあげるとすれば、政治倫理条例改正の審議が急ピッチで進み、議員に順守を義務付ける規準に人権侵害行為が加わりそうなことだろう。政治倫理審査会(政倫審)の会議も非公開から公開へと改まるらしい

▼倫理や差別の問題は不断に考えなければ思考停止となり、忘れられたり時代の流れに遅れてしまう。同条例は平成18年、県議会議長(当時)の傷害事件がきっかけで施行。同条例に基づく政倫審はこれまで開かれていない、という。進化が止まっていたことが混乱の引き金で、条例の適用に紛れを生じさせたと言えなくはない

▼障害者差別、ヘイトスピーチ、部落差別のそれぞれ解消を推進する人権三法が施行されたのは平成28年。県や市町のそれに基づく取り組みはほとんど行われていない。県障害者差別解消条例が同30年制定されたが、聴覚障害者に対する手話の普及体制整備を最後に一段落の気配。運用を巡ってその後さまざまな問題が発生。県職員の採用基準である障害者枠で、障害種による差別も取りざたされている

▼ヘイトクライム(人種、民族などを対象にした憎悪犯罪)については昨年、在日コリアンをターゲットにする連続放火事件が名古屋で発生し、実刑判決が確定した。事件は続発しているが、県内の動きは鈍い。部落差別解消は、せいぜい決意の表明にとどまっているのではないか

▼LGBT条例や5月に内容を一新した人権条例を含め、精力的な活動は制定まで。社会に広く目を転じ、不断の見直しをしていかねばならない。