▼「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」というのは英国のことわざだ。水辺までは、嫌がる馬をなだめすかし、脅して連れて行くのだろうが、馬にしてみればへそを曲げて、何が何でも飲むものかと思っている、と英国人は考えたのだろう
▼県教委が県立の夜間中学を設置する考えを県議会常任委員会で示した。嫌がっていたのは、これまで随所で見かけた。市町の教育関係者への聞き取りでニーズがないとしたり、回答者六十数人の〝県民アンケート〟で否定的答えが多かったなどと言っていた
▼それらを批判されて改めて実施したアンケートでは意外にニーズがあったこと、体験教室の結果も好評だったことで、考えを改めたか、それとも外堀を埋められた格好か。国の一県一校の呼びかけに、やはり抵抗は難しかったか。いずれかは、これからにかかる
▼設置の理由づけは「義務教育を学び直したいというニーズがある」だが、夜間中学のニーズ全体からみればそれは一部に過ぎない。不登校児童や障害児者、外国人家族など、日本のダイバーシティー社会を実質的に支える。県教委が日本語教育を否定し、中学校卒業能力の取得を目指しているようなのが気がかりではある
▼かつて定時制高校改革の一環で不登校生を対象にした高校に衣替えしたが、それまでの慢性定数割れから一転人気校になると、不登校生が発生する五月連休明けなどの途中入学に扉を閉ざすなど、既成の学校運営に徹した
▼無理強いや型にはめるのは本人のためにならない―英国のことわざは教育の本質も含む。