伊勢新聞

2022年9月26日(月)

▼松阪市飯高町に国内最大規模の風力発電施設の建設を計画する民間業者が、地元での住民説明会について見解を表明している。5回の開催は殺伐とし「地域の真意を直接伺うことは難しくなる」「地方自治の本旨に反することになる」のではないかと危惧しているという

▼具体的には「事業者が回答を行っている渦中に突如奇声を発す」「大声をあげながら椅子を振り上げて威嚇する」「威圧的な発言を時に名指しで繰り返す」。半世紀近く前だが、漁業権を巡る漁業者の県への陳情を取材した。漁業者30人余りに対し、県の漁政課長ら数人が説明会を設けたが、漁師言葉は荒っぽい。二言目には課長の頭髪に絡み「オイ、ハゲ」「コラ、ハゲ」

▼頭に汗を浮かべ、書類に目を通しながら冷静に説明する課長に対し後刻「大変ですね」と声をかけたが、今ならまた別な感想もある。住民説明会に何の法的位置づけもなかったころで、10年ほど後に環境影響評価法が成立してからでも、開催すればよく、そこでの意見を計画に反映させなくても問題とされなかった

▼住民説明会が現在の形になったのは地方自治法が定める団体自治と住民自治のうち、住民参加を定めて住民自治の進化だが、団体自治と対立した場合、劣勢は否めない。だから主張を通す強硬手段が採られたりする

▼住民自治が登場するのは住民の生活環境が侵害される時がほとんどで、強力な侵害側対し、死に物狂いの戦いを迫られるケースが少なくない。弱い住民の意思と責任に基づく行政を原則とするのが住民自治。地方自治の本旨であることは言うまでもない。