伊勢新聞

2022年8月27日(土)

▼警察庁長官引責辞任といえば、神奈川県警はじめ全国で警察不祥事が相次いで警察批判が高まった平成12年、当時の長官が辞任したケースを思い出す。当人が「引責ではない」と言い、報道機関の充て職のようになっていた公安委員が「辞任は武士で言えば切腹。これで収めていいのではないか」という趣旨の発言をした。不快な記憶が残る

▼中村格長官の引責辞任も、だから色眼鏡で見がちなのは恐縮だが、平成12年の佐藤栄作元首相の国民葬で、葬儀委員長を務めていた当時の三木武夫首相が背後から近づいた暴漢に顔面を殴打され、第2撃も浴び、眼鏡は吹っ飛ばされ、その場にあおむけに倒れ込んだという

▼狙撃ではなかったが、こちらは元ではなく、現職の首相。22年後に再び起きた背後の空白。一義的責任は県警本部長で長官の辞任は異例などの報道がもっぱらだが、教訓が何も生かされてこなかったことを考えると辞任もやむなし。異例を強調することもない気がする

▼元TBS記者に性被害を受けたとジャーナリストの伊藤詩織さんが訴えた事件で、元記者の逮捕状を執行直前に待ったをかけたのが当時警視庁刑事部長だった中村長官だったと報じた全国紙があった。批判は強く、長官就任会見で「法と証拠以外を考慮して捜査上の判断をしたことは一度もない」と異例の発言をしたという

▼就任時、こうした官邸人事を示唆したメディアはなかったと雑誌『世界』の「メディア批評」が書いていたので驚いたが、安倍晋三元首相も死に、中村長官も辞任。もういいかと思ったか。不快さがよみがえる。