伊勢新聞

2022年8月21日(日)

▼「鉄のカーテン」の言葉を世界に広めたのは英国の宰相チャーチルである。昭和21年、米ミズーリ州の演説で用いたのがきっかけとされる

▼名言の数々で知られるチャーチルだが、演説の巧みさに定評があり、伝記を書いた側近は執務室で一人、ぶつぶつとつぶやくチャーチルを描く。演説の草稿の推敲を重ねているのだ。政敵アトリーはレトリックの巧みさだけで政権を運営できないことを思い知らせてやると言っていたという

▼チャーチルを引き合いに出すのは気の毒だが、一見勝之知事の発言の県民へのメッセージ性の乏しさには少々あきれさせられる。「BA・5対策強化宣言」延長に際して「ピークと予想していた8月上旬よりも感染者数が多い」とした上で、延長期間を2週間とした理由を「そろそろピークになっていると考え、あまり長くならないようにした」。力が抜ける

▼前日には、期間延長の理由を病床使用率の50%超えをあげ、感染者の全数把握をしないことについては「保健所業務がひっ逼しているので必要ない」。どこを向いて県政をリードしているのか

▼北川正恭元知事に農水省の存在理由を問われ、「農家や漁業者を守るため、かな」と答え、「国民の食料を安定供給することさ」と言われて、目からうろこをはぎ取られた心地がした。では県の存在理由はなにか

▼コロナ禍で言えば、コロナから県民をどう守るかで、そのために保健所業務を、病床使用率を、そして経済振興をどうするかだ。保健所が大変だから肝心な業務は削減し、通院自粛を呼びかける―視線の先に見ているのは。