伊勢新聞

「まる見えリポート」BA・5対策強化宣言、一見知事の提案で実現 効果を疑問視する声も

【面談後の取材に応じる一見知事(手前)と新保院長=四日市市日永で】

新型コロナウイルスの拡大に伴う医療逼迫(ひっぱく)を受け、三重県が5日に発出した「BA・5対策強化宣言」。「まん延防止等重点措置」に至る前の対応として政府が新設した枠組みだが、実は一見勝之知事の提案によって実現した。県としては誇らしい経緯だが、その効果を疑問視する声も。県は宣言に外出自粛要請などの行動制限を盛り込まず、感染リスクへの注意などを呼びかける程度。コロナ禍で疲弊した経済活動をこれ以上は止められないという理由があるにせよ、人流が増えるお盆を前に感染拡大の不安は尽きない。

政府は先月29日の感染症対策本部で、BA・5対策強化宣言の導入を決めた。宣言を発出した都道府県を国が対策強化地域に位置付け、住民への協力要請や呼びかけを助言などによって支援する。

「三重県がずっと以前から提案していた。知事会長(平井伸治鳥取県知事)にもそうおっしゃっていただいた」。一見知事は2日の知事定例記者会見で、政府が今回の宣言を導入した経緯を誇らしげに語った。

県は5月、まん延防止等重点措置の前段階でも国と県が連携して措置を講じることが可能な仕組みを新設するよう政府に要望。全国知事会も感染急拡大を受けた国への緊急建議に一見知事の提案を盛り込んだ。

一見知事の提案によって宣言が実現したことは、全国放送の討論番組でも紹介された。就任してから1年もたたず、対面で全国知事会議に出席したのも先月が初めてだった一見知事としては大きな成果だ。

ただ、県が発出した宣言に外出自粛要請などの強い措置はなく、新たに加わったものと言えば救急車や救急外来の利用に関する要請ぐらい。マスク会食や黙食の徹底など、従来通りの呼びかけが多くを占める。

他県からは早速、宣言の効果を指摘する声が上がった。仁坂吉伸和歌山県知事は4日の定例記者会見で、宣言について「はっきり言うと何の役にも立たない」と発言。宣言を出さない考えを示したという。

■  ■

感染が急拡大した先月以降も県の対策に強い措置はない。飲食店への営業時短要請はもちろんのこと、同一テーブルの人数制限も実施せず。現時点では旅行の代金を割り引く県民割を停止する予定もない。

県は旅行や飲食と感染拡大に関連がないことを、強い措置に踏み込まない根拠としている。確かに県が公表している感染状況の分析結果には少なくとも第7波以降、感染経路に飲食や旅行は見当たらない。

ただ、このデータは信頼性に欠ける。保健所が「業務の重点化」を理由に接触者調査の対象を一部の施設などに絞り込んだためだ。県の担当者も「感染状況を正確に反映したデータだとは言い難い」と認める。

そんな状況でも県の対応は医療関係者の〝お墨付き〟を得た。県立総合医療センターの新保秀人院長は2日、一見知事との面談後、取材に「知事の対応は妥当」と発言。一見知事は、同日夜の会見でこの発言を紹介した。

他方、県は「このままでは交通事故でけがをしても入院できなくなる」(一見知事)と、医療逼迫を懸念する。果たして現状の対策で感染拡大を抑え込めるのか。ある県幹部は「宣言に期待するだけ」と語った。