▼「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」はプロ野球監督を務めた野村克也氏が座右の銘としていたことで知られる。勝ちには運も含め不思議な力が複雑に作用するが、負けは単純で、必然的な要因があると痛感していたのだろう
▼あくまで野球の上のことで、出典の江戸時代後期大名、松浦静山著『甲子夜話』の趣旨と同じかどうか。参院選に勝利した自民党新人の山本佐知子氏と、敗れた野党候補、芳野正英氏に当てはまるかも別の話だが、敗戦に不思議はないと見る向きは多いのではないか
▼運動の中心、立憲民主党県連の中川正春代表は本紙『かく戦った』で「野党が一丸となって戦うことができた」と言うが、芳野氏の敗戦の弁の中では「三重でまとまっていても国の方でばらけてしまい、有権者に混乱を与えてしまった」
▼国の方だけではない。本紙『攻防の裏側』は、来県した国民民主党の玉木雄一郎代表が津市の街頭演説で比例に限定して支持を呼びかけ、選挙区への言及はなかったという。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、中国の不穏な動きに安倍晋三元首相の銃撃事件が加わり、社会不安が広がる中で、「野党一丸」の中のいつか見た不協和音を、有権者が敏感に察知しないはずはない
▼前回選に比べ投票率は1・09ポイント増。安倍元首相の事件で、若干投票率が上がったという分析がある。芳野氏は「後半追い上げたが、得票率の向上に効果はなかった」。旧民主党系の勝利こそ投票率とセット。有権者を投票行動に駆り立てる戦略が必要だったのではないか。負けは不思議ではなかった。