▼安倍晋三元首相は毀誉褒貶相半ばする政治家である。ある一定の層にはこれほど力強く、頼もしい存在はないが、逆に生理的に嫌悪感を感じる向きも少なくない
▼前者の代表が鈴木英敬衆院議員であることは言うまでもない。昨年10月の衆院選に応援に駆けつけ、一日の伊勢市の参院選演説会でもマイクをにぎったばかり。何といっても知事時代の主要国首脳会議(平成28年、伊勢志摩サミット)で、開催地への立候補を促し、決定した
▼小は鈴木議員が衆院4区に確固たる地盤を築く源泉となり、大は県の浮揚に大きく寄与した。半面、首相が国会の野党議員質問中にヤジを飛ばすというのは、安倍氏が二度目の首相に返り咲いてからが初めてではないか。内容に誤りがあって謝罪に追い込まれたのも初めてだろう
▼ツイッターでの攻撃も激しい。朝日新聞への執ような非難は、同社幹部をして会社存廃の危機感を持ったと言わしめている。街頭演説でヤジを飛ばす聴衆に対し「こんな人たち」と突っかかる首相もお目にかかったことはない。そういう立ち位置とおそらく無縁ではないと思うのだが、街頭演説中に安倍元首相が狙撃された
▼参院選中であり、岸田文雄首相は、民主主義の根幹を揺るがすと最大級の批判の言葉を浴びせた。自由主義世界は修復不可能とみられる分断が進む。米国ではトランプ前大統領の共和党内粛清が始まり、英国ではジョンソン首相が辞任に追い込まれた
▼安倍元首相狙撃の衝撃はそれらに劣らぬが、与野党は一斉に蛮行を非難した。分断加速につながらぬことを願わずにいられない。