伊勢新聞

2022年7月2日(土)

▼コラムの書き手は釣り師に似ていると言ったのは休刊になってしまったが、確か文藝春秋社が出していた月刊誌『諸君!』の巻頭を飾った名コラム「紳士と淑女」の筆者、徳岡孝夫さんであった。川のそばに腰を掛け、釣り糸を垂らし、浮きの流れるのをぼんやり眺める。ピクッと上下するとニヤリと笑う。古今の類似の出来事に思いを巡らせ、コラムの一話の題材が一丁上がり、見つかった、と

▼三重県が公文書管理条例で定める手続きを経ずに667件の公文書を廃棄した。見つかった、という思いは共通かもしれない。が、名コラムニストと異なり、ニヤリというより戸惑いが先にくる。類似の出来事はすぐ思いつく。約41億円の繰り越し手続きを忘れた事件。看護大学の受験料、入学金などの値上げを議会の議決を経ずに実施した事件

▼前者が「失念した」、後者が「連絡ミス」が原因とされた。今回も「手続きを失念した」。その都度陳謝し、再発防止策を検討する、実施するなどとし、すぐに同じことを繰り返す。最近では土砂条例の解釈に間違っていたとし、事業者への行政指導を変更した

▼職員の処分が口頭注意より軽かった気がしたが正確かどうか、失念した。今度も、職員の処分はしない方針。「廃棄による実害はない」というのが理由らしいが、公文書は、県民の財産。実害があったかどうかは県民が判断することだ。廃棄したため文書の詳細は不明という。驚くべきずぶとさだ

▼こういう恥知らずな連中を相手にし、コラムの題材は見つかっても言うべき言葉が見つからない。笑えることでなし。