伊勢新聞

大観小観 2022年6月15日(水)

▼国会のヤジ将軍の異名のあった三木武吉のエピソードに「ダルマは9年」というのがある。高橋是清蔵相が大正9年、緊縮予算の説明で「耐え難きを忍んで陸軍は10年、海軍は8年の…」と言いかけたところで「ダルマは9年」と発言。議場は爆笑。本人も苦笑して審議は中断した

▼高橋蔵相のあだ名「ダルマ」と、面壁九年で悟りを開いたという達磨(だるま)大師の故事をひっかけたヤジだが、あだ名の種類によっては面倒なことになったかもしれない。昭和46年の参院で、青島幸男議員が佐藤栄作首相に「財界の男めかけだ」と発言したのは侮辱だとして懲罰動議も出たが、議事録削除で決着した。国会議員の職務上の発言は免責される特権も関係したか

▼特権はヤジには適用されないし、地方議員にもない。元自治会長問題を巡る津市議会の特別委のやりとりは微妙なものも多かった気がする。侮辱罪の適用は、一般的には簡単だが、政治が絡む場合はかくのごとく難しい

▼30年ほど前、団体代表の配布文書に対し、当時の鈴鹿市長が名誉毀損(きそん)で告訴した。警察が同罪で逮捕、検察も起訴したが、裁判で内容の事実関係が争われると、検察は侮辱罪に訴因変更した。弁護側の異議に、検察は「罪が軽くなるんだから被告の利益だ」という趣旨の反論をした

▼ネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策で侮辱罪の厳罰化改正刑法が成立した。その限りで異論はない。知性、機知のかけらもない国会のヤジの抑止になれば結構だが、同罪の定義がそのままでは木に竹を接ぐことにならぬか。警察、検察の使い方にいささかの恐れなしとはしない。