伊勢新聞

2022年6月11日(土)

▼三重県津市の元自治会長と共謀して市から補助金をだまし取ったとする同市の元人権担当理事の二審も、津地裁判決を支持して控訴を棄却した。「補助金を受けられるか否かを一考すらしない」という元理事の主張は「常識に照らしてあり得ない」と退けられた。万事休す

▼元自治会長が防犯灯を設置したと偽り、補助金をだましとった手口の中で、元理事は虚偽の完成写真を用意するという必要不可欠な役割を果たした。職員という立場で「知らなかった」は通るまい。古巣の津市からは、顧問弁護士の調査チームが諸悪の根源だみたいな報告をし、あれほど頼りにされた職員も、議会も雲を霞と離れ去り、誰もかばってくれない。司法にただ一人差し出されたスケープゴートの趣だ

▼自業自得には違いないし、同情の余地は少ない。しかし、丸刈りや土下座の謝罪を強いるいわゆるモンスター市民を相手に、元理事にほかにどんな選択肢があったか、とは思う。詐欺容疑については、別のごみ箱設置補助金の詐取問題で、ごみ箱を組み立てた職員らも「補助金を得ようとしていたとは気付かなかった」と調査チームに証言。報告書は「共謀して補助金を詐取する目的を持って行動したと断定できない」

▼前例踏襲、思考停止は役人の習い。見ざる、聞かざる、言わざるに近寄らずは処世術である。言われたままやり、問題が起きて初めて気づくのは珍しくない。みんなで渡れば怖くないと、市のため人より少し力を尽くしたつもりの職員が、見回せば弾丸の雨の戦場に裸で一人取り残されていた。不気味な、役人社会の闇である。