伊勢新聞

2022年5月27日(金)

▼「ちいさい秋みつけた」などの童謡や、戦後大ヒットした「リンゴの唄」を作詞したサトウハチローが、12歳で「悲しき口笛」をヒットさせた美空ひばりをゲテモノ呼ばわりしたことはよく知られている。8歳で臨んだNHKラジオののど自慢素人音楽祭に合格せず、審査員から「うまいが子供らしくない」「非教育的だ」などの酷評を受けた

▼翌年審査員の一人、作曲家古賀政男は請われて歌を聞き「のど自慢の段階じゃない。立派にできあがっている」。前者は当時の社会の規範意識からの、後者は純粋に才能を見ての評価なのだろう。子どもの才能の芽を社会の規範意識で摘むことは厳に戒めなければならないが、社会から逸脱しないよう見守ることも大切なことだ

▼実際、当時とは打って変わって芸能界は子どもの活躍する時代。特にテレビのCMでは子役の域を出た一人前の扱いが珍しくなく、サトウハチローの気持ちが分かる気がしてくるが、ネット上の学習支援サービスを使って子どもの情報を収集し広告に活用される、として国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が収集、活用をやめるよう広告企業などに呼びかけた

▼同サービスの9割で、子どもの住所氏名、学習内容が収集され第三者に渡る仕組みが組み込まれていたという。子ども向けラジオドラマ『ヤン坊ニン坊トン坊』(昭和29―32年)の脚本を担当した劇作家、飯沢匡はやはり美空ひばりの批判派で「タイハイした大人の猿真似を子どもにさせる」と言った

▼今は、そんなことを言う大人は人権団体ぐらいに違いない。