伊勢新聞

2022年5月15日(日)

▼県警本部の佐野朋毅本部長が取り調べのあり方について「基本的人権を尊重し、公正誠実に行わければならない」などと訓示した。窃盗事件で被疑者へ黙秘権を告知しなかったことが津地裁から違法と認定されたため、早速対応を明らかにしたので、県警が人権について特に考えを深めたというわけではないらしい

▼国家公安委員会が取り調べの適正化について決定したのは平成19年のことだ。適正化を問われる取り調べのため無罪判決が相次ぎ、捜査への国民の信頼が揺らいでいると、決定の背景を説明している。このままでは二年後の裁判員裁判制度で、裁判員に不信を招きかねないとする危機感もあらわにしていた

▼「個人の基本的人権を全うしつつ行われるべきことは当然」とあるから、基本的人権を警察当局が口にする事情はいずこも同じという気はする。決定には都道府県警察の実態を勘案し、適正な対策を講じるよう求めているから、県警の本部長訓話は、おやいまごろという感は否めない

▼被疑者として取り調べられた経験はないが、言葉や実力で震えあげさせる取り調べは随分聞いた。夜のウオーキング中に職務質問を受け、二人の警察官に両腕をがっちり固められて窃盗未遂と決めつけた〝取り調べ〟も受けた。知人がけんかの仲裁に入り、散々殴られて最低限の反撃をしたら、けんか両成敗で告訴を思いとどまるように説得されたこともある

▼四日市のストーカー殺人では、二年前から警察に数回相談していたのに殺傷を防げなかった。裁判対策もだが、県民の命を守る活動にも本腰を入れられたい。