伊勢新聞

2022年5月1日(日)

▼夏も近づく八十八夜―文部省唱歌として明治45年発表された『茶摘み』は今も昔も誰もが知る歌だろうが、茶といえばペットボトルを思う人が多くなったのではないか。働き方改革で、会社でも「お茶くみ」という〝仕事〟が消えつつある。会議でペットボトルがドンと置かれるのが普通になった

▼県の茶どころ、四日市市水沢町で新茶初市が開かれた。最高値が1キロ4万3888円と聞かされても、別世界の印象を持つ人が多いに違いない。急須でお茶を出す家庭も少なくなっているそうだ

▼八十八夜は、立春から数えて88日目を指す雑節の一つ。中国で作られた暦、24節気では季節の変わり目が実際と合わないために補足された日本独自の暦が雑節で、二百十日もそうだ。現代の暦では5月初めが相当し、今年は2日になる

▼この日を目安に茶摘みや田の籾まきが始まる。一番茶はうまみ、渋み、苦みのバランスがもっとも優れていると言われる。そんな違いは分からなくても、手軽な値段の茶葉を無造作に急須に入れ、お湯を注いで適当に飲んでも、新茶の味は格別。それを知る世代が少なくなって、日本伝統の繊細な味が忘れられていくのは、もったいない気がする

▼「八十八夜の別れ霜」と言われる。茶の大敵である遅霜が発生する時期。このころを境に霜が発生しなくもなる。茶畑に立ち並ぶ防霜ファンが普及したのは平成初めの甚大な霜被害からだ

▼雨に見舞われた29日だが、鉄道・空港は混雑し大型連休の観光地の予約も順調という。3密、とくに換気に気を付け、久々の息抜きを。