伊勢新聞

<まる見えリポート>児童虐待事件、後絶たず

【ワタナベ被告の判決公判が開かれた法廷】

児童虐待による痛ましい事件が後を絶たない。三重県子育て支援課によると、令和2年度中の児童虐待相談が前年度比3・9%(86件)増の2315件で6年連続で過去最多を更新した。同課は「コロナ禍で虐待の現場を発見しづらいという懸念がある。学校や警察などとの連携を強化し、虐待の未然防止に力を入れていく」としている。

亀山市で令和元年10月、ブラジル国籍の男児=当時(6つ)=が、同居していたメキシコ国籍の男に暴行されて死亡した事件は、行政や周囲の目が届きにくい環境で起きた。男児は在留期限が切れて住民登録が抹消されており、行政は男児の存在を把握していなかった。幼稚園に通っていなかったため、虐待を受けていることが知られず、児童相談所への通告もなかった。

男児の父は入国管理局に収容中、母は海外に出国していたため平成31年1月に兄とともに男のもとに預けられた。亀山市のアパートでペルー国籍の女性、女性の長男と長女の計6人で暮らし、兄弟は日常的に暴行を受けていた。

兄弟が同居する前の平成30年10月、男と女性がけんかし、女性が県警に通報。県警は、子の前で保護者がけんかする、長女と長男への「面前DV」に当たると判断し、市は要保護家庭と認識し、半年間見守り活動を続けていた。

見守り解除後の令和元年8月、市に「アパートのベランダに子どもが出ているので、気にかけてほしい」と通報があった。亀山市によると、市職員が長男と長女の安全を確認するため、アパートを訪問し兄弟の存在を確認したが、服装の乱れやあざなどがないことや、4人暮らしと思っていたため、兄弟について尋ねなかったという。

この事件で、傷害致死や暴行などの罪に問われたワタナベ・ゲバラ・アレハンドロ被告(44)に対し、津地裁の柴田誠裁判長は4月15日、懲役7年(求刑・懲役10年)の実刑判決を下した。

判決によると、ワタナベ被告は令和元年10月12日ごろ、亀山市内の自宅アパートで、同居の男児チアゴ・ファン・パブロ・ハシモト君の顔を平手でたたいて後頭部を床に打ち付けるなどの暴行を加え、同月28日、外傷性脳障害で死亡させた。

柴田裁判長は判決理由で「しつけの範ちゅうをはるかに超える暴力をふるうこともあったと認められ、軽い事案でない」と非難。一方で「行政などに支援を求めるなど被告なりに手を尽くしたものの支援を断られて八方ふさがりになる中、精神的に追い詰められた」とも述べた。

判決後、記者会見した補充裁判員の男性は「身寄りのない子どもを支援する態勢があればよかった」と話した。

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県内では平成24年、1歳に満たない乳児が、母親に虐待され死亡する事件が2件発生している。この事件を受け、県は、虐待に対応するための独自のリスクアセスメントシートを作成。このシートを基に、一時保護の決定をするという。

一時保護された子どもは、児童相談所に併設されている一時保護施設や児童養護施設、里親の元で過ごす。県子育て支援課によると、令和2年度の虐待相談2315件のうち、一時保護されたのは一割に当たる241件だった。

児童虐待に詳しい山田容・龍谷大社会学部教授(児童虐待・ソーシャルワーク)は「児童相談所や保護施設が都道府県に数カ所しかなく、通報があっても重大なケースしか一時保護できないなど、児童虐待に対応する体制が十分整っていない」と指摘。「事後的な介入も重要だが、虐待状況にならないように家族だけで子どもを育てるのは容易ではないという認識に立ち、行政はNPOなどと協力し、地域で親や子の居場所をつくり、SOSをキャッチできる関係をつくることが大切」と話している。