伊勢新聞

2022年3月10日(木)

▼ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナから脱出する避難民について、一見勝之三重県知事は受け入れ体制を整える考えを示した。武力による現状変更を意図して核兵器の使用を示唆し、原発への攻撃もためらわないロシアには、恐怖と憤りを覚える県民も多いに違いない。厳寒の中を逃げ惑う女性や子どもへの同情もまた。少しでも支援の手を差し伸べることは県民大多数の願いにかなおう

▼すでに避難民100万人超が欧州へ押し寄せている段階で、一見知事の「どこの課で(支援策を)取りまとめるかを決めた上で改めて発表したい」という言葉は遠い国の〝おとぎ話〟にふさわしく、具体的支援策にさらに時間を費やすのだろう。岸田文雄首相が受け入れ表明したのが二日で、以後八日の参院までに受け入れた人数は八人。国全体が〝おとぎの国〟でもある

▼京都市はじめ姫路、沖縄、名古屋各市などが受け入れ表明する中で、都道府県としては県は初めてか。国防に敏感な知事の面目躍如だが、現実には受け入れ主体の市町との調整も必要になろう

▼思い出すのは、東北大震災後のがれき処理で、いち早く受け入れに意欲を示した前知事が、一部県民の反対や慎重な市町の姿勢でたちまち腰砕けになったことだ。説得に乗り出すこともなく時間だけが過ぎ、先方から見通しがついたという〝礼状〟で幕引きとなった

▼当時の新聞業界の集まりで、地元紙が協力への感謝を述べるたびに気恥ずかしい思いをした記憶がよみがえる。判官びいきは古き良き日本の国民感情だが健在か。古き国民の一人として、知事にエールを送りたい。