伊勢新聞

2022年3月9日(水)

▼危険な病原体を処理する施設を導入した医療機関の排水に反対するわさび栽培業者を前に県職員が排水を飲んで見せてピタリと沈静化させた話がある。BSE(牛海綿状脳症)問題で県の牛肉業界が大打撃を受けた時、当時の野呂昭彦知事は全国に先駆けて安全宣言を出し、試食会などに積極的に出席。市場復活へ口火を切った

▼為政者などの行動は、科学とは別に県民の心理に作用するものに違いない。コロナ禍で、一見勝之知事が三回目のワクチンを接種して大きな副反応はなかった体験を説明して接種を呼び掛けたが、低接種率は一向変わらないらしい

▼県は「過去に実施した職域接種の件数が現在の在庫に影響した可能性がある」。何を言っているか分からないことが理由なのかもしれないが、知事の言うことを県民が信頼していないということでもあるまい。過去二回の接種で、重い副反応に苦しんだ県民は少なくない。再び苦痛を繰り返す気の重さが、こぼれ落ちていっているのだろう

▼オミクロン株の危険性は国を挙げて否定している。一見知事がその代弁者であることも確か。「まん延防止等重点措置」申請時の病床使用率は50%以下で、申請理由に特にあげなかったが、解除では説得力ある新規感染者数が高止まりしている中で、病床使用率50%以下を強調している

▼東海三県の知事会議でも、ひとり解除しているにもかかわらず、変わらぬ連携を訴えた。知識の肥えた県民には知事の言動のうち、口で言うほど行動は深刻でないと透けて見えたのかもしれない。これも知事への信頼の表れと見るかどうか。