伊勢新聞

2021年12月26日(日)

▼三重県議会の青木謙順議長が、個人情報の保護を目的に、損害賠償や和解などの相手方の氏名、住所を議案に記載しないことを決めたと発表した。6月現在、10県が同様の対応をしているという。時流に乗るという意味もあるか。うらやましい気がしなくもない

▼「県民や執行部から個人情報への配慮を求める声があった」ため促されたということか。「ストーカーなどの被害につながることも懸念した」。今ごろ気づいたというわけではあるまい。条例改正などもなく「議会運営委員会で十分に協議」した結果という。シャンシャン総会を思わせもする

▼情報公開か個人情報保護かは新型コロナの感染拡大で大きく混乱した。法は感染防止のため原則公表としながら個人情報保護への留意も求める。明確なルールはなく、はしかの感染では感染源公表の遅れが拡大につながった。コロナ問題でも、県は感染源自身の公表を粘り強く促す方法を選択し、応じるかどうかで実質不平等現象もみられた

▼報道機関も、何十年にもわたり実名か匿名かの議論を繰り広げている。取材源の秘匿と情報の出所明示は報道の二大原則だが、時に相反する。実名報道が原則だが、悩みながら匿名分野を拡大させつつある。裁判の公開原則は秘密裁判の恐ろしさから生まれ、行政の隠ぺい体質が国民の知る権利を後押しした。国民が獲得した権利で、正確に記録して国民に提供し、後世の批判にも耐えて、研究の素材にもするという欧米の考え方とは異なる

▼コロナ禍が一段落するとともに、ばっさり実名表記を放棄した議会はやはりうらやましい。