伊勢新聞

2021年11月9日(火)

▼皇居の中を指定して申請してもいいんですと、産業廃棄物処分場建設計画を指導する国の役人が言ったという逸話がある。その当時に亀山市で同処分場が計画されたころ、反対運動に奔走して成功した田中亮太県議(当時、のち同市市長)が「方法を考えれば(不可能と見えても)断念させることはできる」と語った

▼松阪市飯高町に民間事業者が計画する国内最大規模の風力発電施設について、事業者の計画段階環境配慮書に「中立の立場」で意見を述べた竹上真人市長は、はるかに厳しい知事意見について「異例」とコメントした

▼自然エネルギーを推進する立場の経産相が「事業の取りやめも含めた見直し」を事業者に求めたのは、知事意見が大きく作用したに違いない。既存の法やルール「前例」として踏襲していては現状を打破する道はない

▼自然エネへの切り替えは待ったなしだが、具体的手段を十分に練らずに構想状態むき出しで奨励の大号令をかけるのは弊害が大きい。太陽光発電が住宅地や湖沼、山地に侵食し、風力発電が生態系に大きく関わる森林を開拓していくなどはその例だろう

▼昭和の産業構造が「重厚長大」だったのに対し、平成は「軽薄短小」と言われた。マスからパーソナルへのきめ細かい方策が求められたが、自然エネの考え方は相変わらず大規模至上主義で、広大な面積や、利用できるあらゆる空間をかき集める。「重厚長大」思想そのままだ

▼産廃処分場は住民の粘り強い活動や犠牲の上で、現在の厳しい改正が築かれたのはめでたい。が、それを繰り返せばいいということではない。