伊勢新聞

2021年10月23日(土)

▼法令に「不遡及の原則」というのがある。法の効力は施行とともにで、過去の出来事には適用されないことだ。対象は一般国民であろうが行政機関、政治家であろうが、問わない。「法には触れていない」という釈明がまかり通る理由だ

▼三重県立高1男子が自殺した事件で、遺族が当時の担任で部活動顧問を注意義務違反があったとして訴えたのに対し、県はいじめがあったと認めた上で「教諭はいじめについて知らなかった。自殺を予見できなかった」とし、棄却を求めた。注意義務違反かどうかは、知っていたか知らなかったかで分かれるらしい

▼いじめについて、県教委は事実上、長く「知らなかった」の姿勢を続けてきた。いじめの発生は学校の、教諭の評価を下げる。いじめを認めず、気づかずの対応が浸透し、認知件数は年々減少。問題行動の中で取るに足りない事案となっていた。大津市中2いじめ自殺事件で定義自体の変更もあり、国は基準を強化。県教委も独自調査を実施し、認知件数は跳ね上がった

▼定期的アンケート調査さえすれば早期発見は簡単、とされた時期もあったが、昨年度はアンケートの欠点が指摘されて改定。コロナ禍の今年度は全国的に減少している中で、県はまた急増した。一貫して流れているのは、早期発見ができないのはアンケートをはじめ調査や教師の能力に問題があり、スキルを強化しなければならないという認識だ

▼平成25年以降、いじめには教育的な配慮の上、早期に警察への通報、連携が必要とされている。「知らなかった」という主張は時計が逆戻りしていないか。