伊勢新聞

2021年10月16日(土)

▼衆院解散で、事実上の選挙戦に入り、各党党首の主張を聞いた。日本の直面する課題を掲げ、報道は与野党の「論戦が期待される」などの決まり文句で結んだ。期待通りになるかどうか。直前の財務事務次官の「ばらまき合戦」の指摘に与野党とも激震が走ったという

▼上から目線で、内容は一般的な財政論に過ぎない気もするが「ばらまき合戦」の言葉にカチンときたのだろう。武士は相身互い。財源論を深めるような論戦にはなるまい。与野党激突型の小選挙区で、中身のある論戦にはとんとご無沙汰している

▼中選挙区時代も同様だが、一選挙区に与野党とも複数が立候補し、それぞれが与党票と野党票を争奪する構図だから、同じ党派内の仁義なき戦いがし烈だった。具体的には中傷するうわさや怪文書になって現れる。与党同士の場合は、互いに政策に関与しているため、普段表に出ない奥の院の一端がさらけ出され、目からうろこが落ちる思いも何度かした

▼ある市のごみ焼却炉購入を巡り、特定メーカーと前職との癒着を暴露する怪文書が出回ったことがある。その数年後、前職と犬猿の仲とされた市長のもとで、その特定メーカーの焼却炉が市に納入された。怪文書を書いたとする同じ党の議員秘書が笑った。「(市長の)情報で書いたんだが、まさか自分が取って代わるとは」

▼特定メーカーは関連を完全否定した。市長後援会に入会したのも「たまたま」。告発するような記事は書けなかったが以来、いくつかの疑惑の背景が透けて見える気がした。あくまで個人的にだが、そのころの選挙は面白かった。