伊勢新聞

2021年9月16日(木)

▼ネット上の誹謗中傷対策として法務省は刑法の「侮辱罪」の厳罰化を法制審議会に諮問する。厳罰化した侮辱罪がネット対策だけを対象にするわけでもあるまい。昔鈴鹿市長に対し、公開質問状形式で出した批判文書が名誉毀損罪に問われたが、検察が裁判途中で侮辱罪に訴因変更した

▼具体的事例を示し名誉を傷つける名誉毀損罪に対し、侮辱罪は悪口でも成立し、内容の真偽、性格は問わない。問題のすり替えだという被告側の抗議に、検察は刑が軽くなるのだから問題はないと言い切った。両罪は検察の法廷戦術にとって、近似の関係にある

▼その侮辱罪の厳罰化は昨年、テレビ番組に出演した女子プロレスラーがSNSでの中傷で傷つき死去した事件で、侮辱罪に問われた男性2人が9千円の略式命令を受け「軽すぎる」と批判が殺到したため。その通りに違いないが、それはそれ、これはこれである

▼いつぞや農協の役員会の激論で、売り言葉に応じた買い言葉が侮辱罪に問われ、確定したことがある。成立しやすく、本来免責のはずの議会での発言もひっかかる可能性はゼロではない。名誉毀損罪と同等に懲役を含む罰則となれば、発言の萎縮にもなりかねない

▼ネット上の誹謗中傷は当初「便所の落書き」と言われた。そんな過小評価はできなくなったが、本来似通っていなくもない。明治40年施行の侮辱罪の対象とするのは影響が大きすぎないか

▼総務省がプロバイダー責任法改正などネット対策を強化している。新しい酒は新しい革袋に、そうしなければ袋は破け、酒も袋もダメになると新約聖書は説く。