多気町など六町が申請した国家戦略特区「三重広域連携スーパーシティ構想」が8月6日、内閣府から「もっと大胆な規制改革を」と再提案を求められた。再提出は特区申請した全国31件全てが対象。特区の選定は総選挙後に持ち越されたが、関連事業は7月に全面開業した多気町の大型商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」で先行実施し、今月には国の実証実験に採択された。地方創生に加えコロナ後を見据え動き出している。
同構想は多気、明和、大台、度会、大紀、紀北の6町がつくる「三重広域連携スーパーシティ推進協議会」が進め、三菱電機や大日本印刷など民間27社が協力。7月20日にグランドオープンしたヴィソンを拠点に6町広域で、移動や医療など8分野にわたり規制緩和と絡め最先端技術を生かす。
ヴィソンは食と健康をテーマに掲げ、産直市場やレストラン街、温浴施設、ホテルなど約70店舗が出店。菰野町で複合温泉施設を経営するアクアイグニスとロート製薬、イオンタウン、ファーストブラザーズの四社でつくる「ヴィソン多気」が運営する。
規制改革で生まれた民間施設直結のスマートインターチェンジ(IC)を取り入れ、伊勢自動車道上りの「多気ヴィソンスマートIC」から施設へ入れる。
開業前の内覧会でスーパーシティ構想に先立つ取り組みとして、電動三輪バイクのシェアサービスや自動走行車、ホテルヴィソン内クリニックのオンライン診療、ドローンでの巡回警備など8件を披露した。
昨年6月に多気町で開いたスーパーシティ構想勉強会で講師の片山さつき元地方創生・規制改革担当大臣はコロナ禍での観光客の激減に触れ、「スーパーシティで非接触を徹底することにより、住民だけでなく観光客にとっても安心安全な観光地を早期に実現することを目指す」と主張した。
緊急事態宣言で外出自粛が続き、宿泊・観光・飲食業が直撃を受けている。感染防止に役立つスーパーシティ構想の可能性が注目される。
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内閣府の再提出要請は8月6日に連絡があり、期限は2カ月がめどとされた。6町協議会は10月中旬に再提案する予定。
当初は昨年8月末に申請を締め切り、3カ月ほどの審査期間を経て認可されるスケジュールだったが、選定が大幅に遅れていた。衆院議員の任期は10月21日なので、特区認可は総選挙後の政権へ先送りされる。
久保行央多気町長は「例えばドローンで無人薬剤配送を考えたが、内閣府の回答では現行法でできるんじゃないか、もっと改革が必要な事案をやったらどうかという話」と説明する一方、「大胆な規制改革と言うが、いざ実際にやると駄目ですよとよく言われた」とも語る。
「これならいけるというものに絞る。採択の可能性は大いにある。全国の中で自治体の連携はなく、企業の参画もあまりない」と自信を示す。一方、「もし駄目でも、協議会で一緒に今の規制の中で進めていけるのでは。連携の絆は強い。前向きに進める」と見通す。
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6町協議会は今月1日、スーパーシティ構想に先行する国交、経産両省のスマートシティ実証実験2件に採択されたと発表した。データ連携とキャッシュレスをテーマに、共通IDアプリとデジタル地域通貨を開発する他、モニターを積み込み看護師や保健師が同乗する車両を使ったオンライン診断に11月から2カ月取り組む。両事業は全国で新規・継続を含め62地域で選定された。
世古口哲哉明和町長は「スーパーシティ構想の根幹をなす2つの事業。キャッシュレス化を一層推進していける。地域全体を活性化していきたい」と期待。大森正信大台町長は「オンライン診療の実証実験の結果をしっかり次につなげていきたい」と意気込む。
内閣府地方創生推進事務局が担うスーパーシティ構想の審査・認可作業は迷走気味だが、構想を通じて地域創生の弾みにはなっているようだ。