伊勢新聞

2021年8月9日(月)

▼新型コロナウイルス感染者の行動歴や接触者調査を個別に発表していた県のホームページでの掲載を取りやめるという。市町や職業だけの一覧表になる。人間が一つの数字になって埋没していくということである。政権の末期的症状を見る思いがする

▼緊急警戒宣言を発令した2日前の記者会見で、鈴木英敬知事は感染者出現以来の県民への報告システムの変更について、何も語らなかった。広聴広報課が「これまで感染しないための行動の参考として掲載してきたが」。県民の知る権利に応えてきたのではなく、行政施策の一環だったという。「感染事例も6千件を超え、一定の目標が達成されたため」と続ける

▼目標が達成された? 感染防止以外にも、目標があったと見える。感染防止にさっぱり効果がないから、感染しないための参考など提供しない、と言っているようでもある。感染症法は発生から動向及び原因に関する情報の新聞などへの「積極的公表」を義務づけている。一方で、個人情報の保護への留意も求める

▼都道府県の広報体制は、この2つの規定を比較衡量して定めている。目標があって実施するとか、達成したからやめるなど、県の都合で取り扱っていいものではない

▼感染発表では、感染経路不明が多い。「調査中」としてきたが、個人の欄の県外訪問歴、県外者との接触歴、行動歴の「なし」がのち更新されたことはない。「行動の参考」の使命を果たしてきたとも言い難い。その充実ではなく放り出す

▼デルタ株拡大の戦局変化になすすべなく、後退を転進と呼んだ旧日本軍を思わせもする。