▼東京五輪・パラリンピックの開閉会式のショーディレクターがナチス・ドイツのユダヤ人の大量虐殺をやゆするコントをしていたことを非難され、開会前日に解任された
▼米国に拠点を置くユダヤ系人権団体が「どれだけ創造的な人物であろうと犠牲者をあざ笑う権利はない」という声明を出した。福島原発事故直後、毒リンゴを差し出す魔女に白雪姫が「日本から来たの?」と問う一こま漫画を掲載した米紙が「被災者の心を傷つけた」という日本政府の抗議で陳謝した
▼当事者の痛みを門外漢が自分のこととして実感するのは難しい。「復興五輪」のスローガンが色あせた東京オリパラで、無理やりその意義を見いだすとすれば、森喜朗・大会組織委員会会長の女性蔑視発言に始まる相次ぐ関係者の辞任劇か。開閉会式総合統括が人気タレントの容姿を侮蔑し、開会式の音楽担当者は同級生のいじめ体験を雑誌インタビューで武勇伝のごとく話し、辞任に追い込まれた
▼日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会での森元会長の女性蔑視発言は、出席者の誰からも注意を受けなかった。ほかの3人にしても、五輪にさえ関与しなければ、自分の差別意識など気づきもせずに、それぞれの分野での権威として振る舞っていたのだろう
▼五輪ビジョンの「多様性と調和」に日本社会がいかにほど遠いかを教えてくれたが、大会関係者の間に「この大会は呪われている」と言う向きもあるという。古来悪いことが続くと怨霊や化け物の仕業にしてきた。今回もそのせいにする動きはあるに違いない。気をつけねばならない。