伊勢新聞

2021年7月11日(日)

▼静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害の救助に当たった中部管区広域緊急援助隊三重県部隊の佐藤貴也小隊長が、災害現場の状況などを語った。家屋の中に流れ込んだ重さ100キロ以上の岩などを手作業で撤去するなど、土石流のすさまじさをほうふつさせた。土砂に埋もれている1人の遺体も発見したという

▼同市伊豆山地区は火山噴出物が固まった軟弱地盤で、土石流危険渓流に囲まれ、県から土砂災害警戒区域に指定されていた。その山の谷を埋め、木を切り、盛り土して宅地開発が進められ、二日からの梅雨前線で降った大量の雨が盛り土の約5万立方メートルをごっそりさらい、約10万立方メートルを一気に伊豆山港に運んだ

▼数百年ごとに土石流を繰り返していた土地柄らしい。が、被災者は「50年間、こんなことはなかった」という。10人の死者・行方不明者を出した県の宮川水系の平成16年の山崩れでも、犠牲者は直前の親戚の避難の勧めをそう言って断った

▼自然の変化に人間の開発行為が加わり、災害を拡大させる。気候変動と自然破壊がタッグを組んだ近年の構図だ。平成18年に津市の住宅が陥没した事故は、戦前の磨き砂採掘による地下空洞というより、近くの道路陥没に伴い地中の水脈が変化した要因が高裁で指摘された

▼斜面に張り巡らされた地下水流が詰まると水圧が高まり土石流が発生する、というのはいなべ市藤原町の西之貝戸川を研究した三重大の考察だ。県内有数の土石流発生地だが、13万立方メートルのすさまじさだった平成24年をはじめ、人的被害はない。備えあればということだろう。