伊勢新聞

2021年6月29日(火)

▼「いろんな支援をさせていただいている中で、痛ましい事件が起きたことは遺憾。二度と事件が起きないよう、きめ細かな相談や支援を継続していきたい」とする一方で、四日市市健康福祉部の担当者は「支援の提供は本人や家族の意思を尊重している」

▼知的障害のある娘を浴槽に沈めて溺死させた母親の事件である。母親に懲役3年6か月の実刑判決を言い渡した津地裁は「娘が『嫌、怖い』などと言ったが、(母親は)無理やり頭を浴槽に沈め」と指摘した。尊重したという意思は娘のか、母親のか

▼「本人や家族の意思を尊重」というのは、かつての虐待死事例検証での児童相談所や市の担当窓口の決まり文句だった。親が協力的でないのは定番だが、児相側は一時保護をしたあとの受け入れ先を考え、家族との信頼関係を壊してまでの強制措置に踏み切るのをためらう。親の意思が尊重されてゼロ歳児を死なせてしまった平成24年の四日市市の事件はそうだった

▼親が知的障害のある子どもを献身的に世話をするのは日本でよくみる光景だが、行き詰まったとき子どもを道連れに死のうとするのも日本に多い風習である。「大好きな親を蹴倒してでも生き延びなければならない」と当事者らは言う。時に、対立した存在になるのだ

▼桑名市の虐待死事例は親を信じて一時帰宅させた結果だった。鈴鹿市の重篤事例ではきょうだいの訴えが関係者に伝わらなかった。児童虐待では大きく改善したというが、知的障害者とその親との危ない状況については何も変わっていないことを、市のコメントは浮き彫りにした。