知的障害のある次女=当時(44)=の将来を悲観し、ホテルの浴槽に沈めて殺害したとして、殺人罪に問われた三重県四日市市浜一色町の無職山本良子被告(72)の裁判員裁判の判決公判が18日津地裁であり、四宮知彦裁判長は懲役3年6月の実刑判決を言い渡した。公判では、山本被告が長年にわたり、1人で次女の恵美さんを介護していたことや、介護の負担などから周囲に心中をほのめかしていたことが明らかとなった。
判決などによると、昨年6月13日から同14日までの間、無理心中を決意し、菰野町内のホテル室内の浴槽内に張った水に恵美さんの頭部を沈めて溺死させた。
平成16年ごろに夫を亡くし、山本被告と恵美さんは2人暮らしをしていた。恵美さんは令和元年12月に脳出血を発症し、排せつなどの介助の負担がさらに増えた。山本被告は、恵美さんの脳出血が再発することを恐れ、ストレスから適応障害を発症。犯行前から「東尋坊(福井県)で身投げしたい」「家に火を付けて死ぬから」などと寺の住職や病院の看護師らに話していた。その際、行政などに相談するよう助言されていた。
山本被告は周囲の声に耳を傾けず、無理心中を決意し、東尋坊に向かった。恵美さんを殺害する約1週間前だった。だが、事情を知ったタクシー運転手に警察署に連れて行かれ、警察官に保護された。
その後、四日市市に戻った山本被告に対し、保健所職員や山本被告の長女の夫が支援を申し出たが、山本被告は「今まで2人で頑張ってきて、今さら誰かに世話になることは嫌だ」と拒んだ。
今月8日の公判で、検察側が読み上げた山本被告の供述調書では、「障害のある子どもを持った親の責任として、子どもが1人で生きていけない以上、一緒に死のうと思った」「長女の夫から『頼ってくれ』と言われたが、それぞれの家庭があるから、ずっと恵美の面倒を見てもらえると思わなかった」と心境を明かしていた。
行政はもっと積極的に関わることができなかったのか。四日市市内には、各地域に在宅介護支援センターや障害に応じた相談支援事業所などがあり、市健康福祉部の担当者は「いろんな支援をさせていただいている中で、痛ましい事件が起きたことは遺憾。二度と事件が起きないよう、きめ細かな相談や支援を継続していきたい」とする。
一方で「支援の提供は本人や家族の意思を尊重している」(同部の担当者)。支援を拒まれる場合もあるという。担当者は「信頼関係を築きながら、関係機関と連携し、粘り強くサービスの提案をしていきたい」と話した。
閉廷後に記者会見に臨んだ補充裁判員の会社員男性は「家族に引き渡して終わりではなく、もう少し寄り添うことが必要だったのでは。(被告は)警察に一度保護されている。何かしらの強制力があればこのような経緯には至ってなかったのではないか」と語った。
山本被告は津地裁の判決を不服とし、名古屋高裁に控訴している。公判で検察側は「適応障害は犯行に影響を与えておらず、犯行を思いとどまる能力は著しく低下していなかった」、弁護側は「適応障害やうつ病などの影響で合理的な判断ができなかった」とそれぞれ主張。山本被告の責任能力が争点となった。四宮裁判長は山本被告の完全責任能力を認め、実刑判決を言い渡した。