伊勢新聞

2021年6月1日(火)

▼「善事をおこないつつ知らぬうちに悪事をやってのける。悪事をはたらきつつ知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ」と池波正太郎著『鬼平犯科帳』は火付け盗賊改方長官・長谷川平蔵に言わせる

▼朝鮮学校の補助金停止にいち早く踏み切った鈴木英敬知事が東海三県知事のテレビ会議で、外国人の感染率が高いとして社員寮住まい、仕事場への送迎バスなど構造的問題を指摘し「外国人差別につながらないように努力している」。2月の全国知事会の緊急対策本部などでも国の実態調査やワクチン接種の多言語対応など外国人対策を訴え、昨年8、10月は「誹謗中傷や差別、偏見は厳に慎んでもらいたい」と県民に呼び掛けた。矛盾はない

▼その時の単位は感染者数だった。8月は3日間の感染者43人のうち21人が、10月は1週間の19人のうち16人が外国人という。今回は感染率が高いというだけ。実態が見えにくくなった

▼ブラジル、東南アジアなど、県に滞在する外国人の家族、友人関係の濃密さはかつての日本社会を思わせる。団地内の定期的夕食会などもよく報じられた。少なくとも今年になってからの外国人の感染は、それらではなく、労働環境に起因していることを強く示唆したと言える

▼昨年11月にシャープ三重工場への労働者派遣業者が外国人約90人を解雇した時、支援の求めに県は「シャープだけではないので個別には対応できない」。雇い止め外国人の多さと県の不作為が想定された。コロナ禍でその後がどうなったか。外国人支援が情報提供にとどまっていいはずはない。