伊勢新聞

<まる見えリポート>鳥羽の旅館 コロナ禍、新たな顧客開拓へ SNSで情報発信 三重

【ダンスを披露する鳥羽ビューホテル花真珠の従業員ら=いずれもTikTok動画で】

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、移動自粛や飲食店の時短営業などが依然続く中、鳥羽のホテルが若者に人気のSNSなどを利用し、新たな顧客層の獲得に乗り出している。1年以上におよぶコロナ禍で今なお観光や宿泊、飲食業が苦境に立たされている。一方で、本来なら思いもつかなかった方法で人々とつながり、世界を広げることも可能となっている。
スーツを着た男性3人が韓国の人気グループBTSの「Dynamite」に合わせ、キレキレに踊り出す―。別の場面では、着物やスーツ姿の男女が親指と人差し指を交差させて小さいハートをつくる「きゅんです」のポーズを取りながら、息の合ったダンスを披露している。短編動画投稿サイト「TikTok」の一場面だ。

動画のコメント欄には「可愛すぎでキュンキュンします」「コロナ禍の中、大変なのにみんなで頑張ってる姿、こっちも楽しくなります」「コロナが落ちついたらぜひ行きます」など好意的な書き込みがずらり並ぶ。

動画を投稿しているのは鳥羽市安楽島町の鳥羽ビューホテル花真珠の従業員ら。2月からTikTokに、従業員からマネジャー、女将、社長までもが軽快に踊る動画をアップしたところ、たちまち人気に火がついた。今や総再生回数1100万回を誇る。

発案したのは女将の迫間優子さん。Go Toトラベルが休止となった12月以降、戻りかけていた宿泊客が再度、激減した。旅行会社への営業も難しく、宣伝活動ができない八方ふさがりの状況。もともと、ユーチューブやフェイスブックなどで積極的に情報発信していたが、なかなか再生回数やフォロワー数が伸びず、集客に結びついていなかった。そこで、「ほとんど見たこともないし、踊ることもできなかった」とするが「最終手段」として目をつけたのがTikTokだった。

動画の作成で活躍しているのは若手従業員だ。他の動画を研究、参考にしながら選曲や振り付けのアイデアを練り、ダンスを練習。一編が数10秒ほどの短編とはいえ、撮影では多いときには2、30回も撮り直し、動画を作り上げていった。投稿した動画は60本以上に上る。

中心人物の一人、加藤皓信さん(21)は当初は徐々に再生回数を増やしていければいいと思っていた。それが1本目の投稿が1時間で数千回の再生数となった。「これほどバズるとは。これはいけると思いました」と反響に驚くとともに、手応えを感じたという。

加藤さんは中学生時代にダンスを習っていた影響もあり、視聴者から「ダンスがすごい」と評判に。「加藤推し」のファンも出現するなど動画人気に一役買っている。「実感が沸かなかったが、推しの方が実際に来館してくれてうれしかった」と話す。「運営者からサポートがつく公式マークがもらえるよう、さらに盛り上げていきたい」と意欲を示す。

撮影は当初ホテル内で行っていたが、鳥羽水族館で踊ったり、地元の海女さんや伊勢市二見町松下のホテル「海の蝶」とコラボしたりと舞台をさまざまな場所に広げている。

女将の迫間さんは「今も厳しい状況が続いているが、なんとかコロナ後の集客につながるよう、伊勢志摩を盛り上げていきたい」と話す。

3月は感染拡大がいったん収まりかけていたこともあり、宿泊者数はコロナ前の3月期に近い程度まで回復するなど好調だった。迫間さんは「TikTokの影響もあったはず」とする。北海道の学生から就職の問い合わせがきたり、千葉県の中学校から連絡が来たりと今までほとんど縁のなかった場所とつながることができたのもSNSの魅力という。

迫間さんは「まさか動画で従業員と踊るとは思っていなかった」としつつ、「子どもが動画を見て、親子で宿泊に来てくれるなど広がりを見せている」と手応え。逆境をばねに変え、アフターコロナに向けた新たな一歩を踏み出している。