伊勢新聞

2021年5月8日(土)

▼東に賽(さい)の河原の仏教説話があれば、西にシーシュポスの岩のギリシア神話がある。前者は親より先に死んだ子どもに罰として供養塔の石積みを命じ、完成間際に鬼が蹴散らし、一から始めさせる。後者は、神を欺いた罰として山頂への巨岩運びを命じられるが、頂上寸前で転がり落ち、こちらも苦行が永遠に続く
▼肉体的に苦痛を与える地獄は数あるが、精神的な苦痛、心を折るには成果の出ない作業の反復が一番という発想がある。新型コロナウイルスの県独自の感染拡大防止策「緊急警戒宣言」が、またも延長されることになった
▼当初は5日までだった。先月末に11日までの延長を決め、その1日前の対策本部員会議でさらに引き延ばすという。まるで逃げ水だ。今回だけではない。発令された過去2回とも当初の予定通り解除になったためしがない
▼4月19日に20日から5月5日までの宣言発令を決め、24日に延長と「まん延防止等重点措置」申請の方向を示し、5月6日に再延長を示唆する。鈴木英敬知事は「措置を緩める状況にはない」というだけで、発令の効果や評価は二の次。このところ「より強い措置を追加する可能性もある」と口にするのもお決まりだ
▼そうせざるを得ないのは自身の施策と何の関係もないみたいだが、当初の予定期間で効果が得られず、ずるずる延長して県民の心を折っていくのは誰か。追い立てるように強行策に突き進むが、飲食店約1400店舗抜き打ち調査の報告をしてもいい
▼的外れな対策をしているわけではないなど、県民の信頼を得る説明をしてもいい気がする。