伊勢新聞

2021年5月7日(金)

▼「こどもの日」は日本古来の風習である端午の節句、別名菖蒲の節句の日に合わせて設定された祝日。王朝時代から武技が催され、武士の世には「尚武」の語呂合わせでいっそう武者ぶりが強調される風潮になったが、発生には菖蒲の根を酒に漬けた中国の健康法や、中国の武将で詩人屈原にチマキを供える伝説も入り込む

▼風薫る5月である。と言い習わしてきた薫風も語源は漢詩文で室町時代以降。それ以前の「風薫る」は風が運んでくる薫りの意で、花でもあり、雪でもあった。漢詩趣味として、芭蕉のころまでは敬遠されたという

▼自然を凝縮したとされる日本庭園。付きものの池は海を取り込んだものであることを哲学者梅原猛さんの文章で知った。自然は客観的なものではなく、海のかなたに、また山の頂にあるとされるあの世との関わりを再現した。緑が重んじられ、花は避けられたという

▼5日の県下は雨。人出に影響したか、新規コロナ感染者は28人で、5月に入ってからは最少。里山を取り込んだ津市近郊の運動公園には4日までは昨年と変わらず親子連れでにぎわった。緊急事態宣言下の昨年と違うのは遊具に使用を禁じるテープがなく、県外からの訪問を断る看板がないこと

▼県の緊急警戒宣言も県外からの移動回避を求めている。違いが激変したコロナ環境下でどう動くか。6日は快晴。薫風の中、里山の遊歩道で未熟なホトトギスの声を聞き、さざ波の池を巡る。新緑は力を増し、花に満つ

▼薫風は王朝のそれではなく、庭園も庶民の文化とは言い難い。新型コロナが変えゆく世界を思った。