▼「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」と鈴木英敬知事が戦前の物理学者、寺田寅彦の著書を引用して、転勤時期などで増える歓送迎会を控えるよう呼びかけたのは3月24日だった
▼その一週間後の夜、県外の飲食店で幹部職員四人と会食した紀宝町の西田健町長は「開催した当時は許される範囲ではないかと思っていた」。陳謝の会見での言葉だから、こわがらな過ぎたということか。正当にこわがることはホントにむつかしい
▼知事も「首都圏の感染者は下げ止まり変異株も拡大傾向。感染症の脅威は過ぎ去らず、警戒を緩める状況にはない」とは言ったものの「再拡大の防止に向け、いち早く感染の芽を摘み取ることが重要」と続けた。こわい事態を招かないための訴えで、転ばぬ先のつえみたいな話だ。当時が「許される範囲」だったかどうか、見極めは難しい
▼問題は西田町長が、こわがらなければならないかどうかで自身の行動を決める立場ではないことだ。菅義偉首相はじめ政府要人らが政治活動の必要を名目に夜間の会食を繰り返し、国民に自粛を要請しながら何だ、と批判された。西田町長も町民に警戒を呼びかける側の立場ということである。西田町長が会食した日は、鈴鹿市が国から招いた副市長の感染が確認され、翌4月1日の着任の延期が発表された
▼当時の鈴木知事の再三の懸念は的中し、今日深刻な事態を招いている。「オール三重」の感染未然防止態勢が足元でほころびていたことを象徴する町長の会食である。