伊勢新聞

2021年4月23日(金)

▼「人権侵害行為」とは人権を違法に侵害することで意味するところは明確。定義が曖昧ということはないとしながらも、法務省は具体的事案の判断は個別であり、一般的に説明することは性質上難しいともいう

▼公開質問状を送ってきた同性カップルの氏名と住所を無断でブログに公開した問題で小林貴虎県議は議会代表者会議で「不適切だった」と謝罪し「依頼を受けたときに削除すべきだった」と非を認めたが、人権侵害については「どの辺りが(そう)なのかよく分からない」

▼それが少数派でもないことは法務省見解でも分からぬではない。が、差別される側の人が氏名などの公開を恐れるのは、相模原障害者施設殺傷事件で殺された19人の遺族が一人も名前を公表しないことでもよく分かる。ハンセン病元患者の家族が国の責任を訴えた家族訴訟は多くが匿名で参加し「いまも、自分の肉親がハンセン病だったことを言えない」

▼熊本県の元ハンセン病患者の宿泊拒否事件では、元患者側がホテルの謝罪を拒否した途端、全国から誹謗(ひぼう)中傷の文書、電話が殺到した。後遺症のひどい人の写真をはがきの中央に張り、言いたい放題。「美しい日本語の中にこれほどにも人を中傷し、さげすむ言葉があったのか、と思うほど、ひどい言動を浴びされ続けた」

▼ホテルは検察などから人権侵害と判定されたが、これら送り人の責任は問われていない。人権侵害を契機にそれ以上に恐ろしいことが起こることを物語る。それら社会的弱者の苦しみを掘り起こして解決を目指すことが政治家に託されていることは間違いない。