伊勢新聞

2021年3月20日(土)

▼不起訴だった東京高検元検事長の賭けマージャン問題が、検察審査会の「起訴相当」の議決を受けて一転し、東京地検特捜部は略式起訴した。それを重く受け止めたとして社員が参加していた朝日新聞が「記者行動基準」改定を公表した

▼あうんの呼吸に見えないか。東京地検の略式起訴理由は不起訴とほぼ同様の「過去の事案との比較など総合的判断」で、前回は「公務員だからといって特別重くする規定はない」、今回は「高検の長という重責を考慮」

▼朝日新聞の改定記者行動基準は取材先との距離を再考し「一体化することがあってはならず、批判精神を忘れてはいけない」。また「信頼を得ることは必要」としたうえで「中立性」「公正さ」に疑念を持たれないこと

▼ともに、国民、読者目線を意識し、検審の議決に配慮した装いだが、検察は法廷で問われることのない罰金刑で幕引き。朝日新聞は、元検事長の定年延長問題が国民の最大関心事となっていた中での当事者との賭けマージャンの位置づけについて触れない

▼記者行動基準は「記者が自律的に活動するためのものとして2006年に制定」という。前年に亀井静香衆院議員と田中康夫長野県知事(いずれも当時)が新党発足を巡って会談したというねつ造記事を掲載し、その後処理として制定された基準でもある

▼「信頼性を得る」ための賭けマージャンの是非は報道界に百論あろうが、記者としての行動が読者に真実を伝えるためのものであることに異論はあるまい。最も大事なことを脇に置いた対応であることもあうんの呼吸に見える理由である。