伊勢新聞

<まる見えリポート>大台、多紀でホテル開業続く コロナ後見据えた観光集客

【(上)開業したフェアフィールド・バイ・マリオット・三重おおだい=大台町佐原で、(中)建設が進むヴィソンのホテル=多気町で、(下)全11室の奥伊勢フォレストピア=大台町薗で】

三重県大台町の道の駅「奥伊勢おおだい」隣に9日、訪日外国人向けホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット・三重おおだい」が開業した。7月には伊勢自動車道から直通できる多気町の大規模リゾート施設「ヴィソン」のホテルがオープンする。迎え撃つ大台町の公設民営ホテル「奥伊勢フォレストピア」は独自の集客策の効果が出てきた。コロナ後を見据え動き出している。

フェアフィールドは宿泊特化型ホテル。積水ハウスと米国のマリオット・インターナショナルが道の駅の隣接地に展開するプロジェクトで開設した。訪日外国人客を取り込もうと本年度中に6府県15カ所に拡大する。県内では昨年10月、御浜町阿田和に「三重御浜」を開業した。

大台町は町全体が大台ケ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパークに登録され、御浜町は世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」が広がる地。いずれも世界レベルの観光地だ。

一方、アクアイグニスやイオンタウンなど4社でつくる合同会社が多気町で建設している国内最大級の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」の開業日程が先月25日に公表された。

3期に分け、4月29日に第1期の産直市場やスイーツエリアがオープンし、伊勢自動車道「多気ヴィソンスマートインターチェンジ(IC)」も開通する。

全国初のスマートIC直結の民間施設となる。上り線出口から入れ、伊勢西ICから約12分で着く。伊勢神宮など伊勢志摩への観光客の来訪が期待でき、伊勢方面からヴィソンへ年間約600万人が訪れると見込む。

6月5日に第2期の温浴施設と木育エリアが開業。7月20日に第3期の宿泊施設や食エリア、農園エリアと併せ約50店舗がグランドオープンする。

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フォレストピアは旧宮川村が平成9年に開設し、大台町が筆頭株主の宮川観光振興公社が運営している。全11室、コテージ5棟の小さなホテルだが、長野県の上高地帝国ホテルの外観を取り入れた風格ある建物。経営不振で町から赤字補填されてきたが、運営改善のてこ入れ効果が出始めている。

閑散期となる冬場の集客の目玉として、顧問に迎えた志摩観光ホテルの宮崎英男名誉総料理長が監修したフランス料理の新メニューを開発。アマゴやワサビなど地元食材も取り入れ、2年前の10月から1泊約2万1000円で提供している。

新作お披露目会で坂東千晴支配人がマリオットやヴィソンの進出を控え、「チャンスと捉えて存在感を示していきたい」とアピールした自信作。人気が出ている。

また、部屋数が少なく大型連休や夏休みのにぎわいを十分取り込めなかったため、キャンプサイトの新設に乗り出した。昨年4月に遊休地を活用し、電源付きオートテントサイトを含む12サイトを造った。

同町の本年度一般会計当初予算にはわんぱく広場の老朽化した木製遊具を更新、集約し、キャンプサイトを設ける工事費用6198万円を盛り込んだ。

だが、コロナ禍の旅行控えが響いている。観光庁速報値で昨年の国内旅行消費額は前年比54・9%減、延べ旅行者数は50・3%減で、GoToトラベルの効果は一時的だった。

大森正信町長は先月24日の町議会臨時会でフォレストピア指定管理者案を提案説明した中で、「経営改善の取り組みの成果は徐々に現れ、売り上げを伸ばしてきた。コロナ禍でも赤字幅を縮小した」と強調し、「コロナ禍の影響を受けたが、国、町の補助金の営業外収益で黒字決算の見込み」と報告した。

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指定管理者には同公社と東京都の1社から応募があり、審査会を経て同公社を候補に選んだが、その指定管理者案は先月15日の町議会臨時会で何と否決。4月以降の運営に暗雲が立ちこめた。再提出された同24日の臨時会で一転、全会一致で可決された。

再提出で大森町長は「町に必要不可欠な施設。管理者が指定されないと4月以降の存続が困難となり、予約客や取引先への影響は計り知れない。産業や雇用で町の活力がなくなる」と訴え、外部有識者の配置など改善策を示した。

前回反対した古田廣幸議員は「2004年の豪雨災害後、2005―19年度に町からの経営安定化資金は2億円余りとなり、町政への圧迫を懸念する」としつつ、「赤字体質の改善を信じる」と賛成討論した。

コロナ禍の非常時、関係者が結束して乗り越えるべき時に、しかも施設や公社の今後の在り方が決まっていない中での否決は、議員の政治センスが問われた。