三重県内のスーパーで異変が起こっている。県内のスーパーといえば、県産米が最も良い位置に並んでいることもしばしば。ところが、ここ最近は客の目の付きやすい場所に県産米ではなく、県外のコメが並ぶようになった。背景には、全国各地での生産過剰や新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外食産業の需要減少などがある。他県との競争を強いられる中、県産米はどこに活路を見いだすのか。
県は「関西・中京地区の米どころ」とされる。コシヒカリの生産量は西日本では最多。そんな米どころのスーパーでは他県産の出る幕などないと言わんばかりに、県産伊賀米や県産コシヒカリなどが最も客の目の付きやすい場所に置かれるのが当たり前だった。
ところが、ここ最近は違うようだ。「県産米を積極的に販売してきたスーパーで、他県産のコメが並ぶようになった」(県農産園芸課)「この辺りでは見かけない関東産コシヒカリをチラシに採用するスーパーがある」(JA全農みえ米穀部)といった指摘が相次ぐ。
背景にはコメの供給過多がある。人口減少や食の多様化などでコメの需要が減少する中、東日本の主要産地が豊作だった結果、各地で大量の在庫が発生。新型コロナウイルスの感染拡大で外食需要が落ち込んだことも加わって全国的に供給過剰となった。
JA全農みえ米穀部の担当者は、県外から流入している理由について「コメの生産地は在庫を置いておくだけでも保管料や経費がかかるので、大変な状況になる。コメを遠方から陸路で運送する費用がかかったとしても、売りさばくことが大事なのだろう」とみる。
どの産地のコメを食べるかは消費者の自由とはいえ、県産米離れにつながりかねない状況に県内の米農家には危機感もみられる。米農家らは先月13日に鈴木英敬知事とオンラインで意見交換し「他県のコメがたくさん入ってきて販売競争になっている」と訴えた。
こうした現状の中、県産米の消費を促そうと、生産者団体などでつくる「みえの米ブランド化推進会議」は、県産の無洗米を購入した人を対象に松阪牛などが抽選で当たるキャンペーンを実施。寒い時季に洗わずに食べられるコメで、県産米の良さをPRしている。
また、県は中長期的な戦略として、弁当やおにぎりなどの「中食産業」に県産米の活路を見いだす。外出を自粛する生活が浸透したことで、外食産業の需要が減少。新型コロナの感染拡大前から需要が高まっていた中食に注目し、取り扱いを増やす考えだ。
ただ、中食産業でも他県と競争になることは予想される。県によると、県産米は東日本の米どころに比べて新米の収穫時期が早いため、長期にわたって大量に安定的に供給できるのが強み。県のブランド米「結びの神」は冷めてもおいしいため、おにぎり向きという。
県はこれらの強みを生かし、県産米の卸売業者に対し、弁当業者など中食産業への販路拡大を働きかける方針。県農産園芸課の担当者は「あくまで県産米の消費は家庭で食べられる主食用米が中心だが、中食や外食も含めて業務用米の販売を増やす」としている。
ただ、全国的な米余りを解消するには在庫を消費するとともに、生産を抑制する必要がある。国は昨年10月に需要に見合った令和3年米の適正な生産量の見通しを示した。県内の生産量目安は前年から3・09%減の約13万2800トンとされ「少なくともこの10年間では最大規模の減産」(県農産園芸課)。新型コロナの収束が見通せない中、食卓に並ぶコメもまた苦境に立たされているようだ。