伊勢新聞

大観小観 2021年1月12日(火)

▼新型コロナは社会のゆがみを教えてくれるという。なるほどと思うのは、医療崩壊の危機で、県内の病床使用率も6割を超えたという報道だ。3日は4割台と伝えられたが、5日からの連続最多更新でたちまちは5割を突破。10日に6割を超えた

▼やはり5割前後だった昨年12月、県の対策本部担当者は「医療体制がひっ迫しているというわけではない」としつつ「病床使用率は、あくまでベッドの話。医療機関に負荷が掛かっているのは事実だ」。禅問答のようで意味が分からぬが、思い出すのは脳梗塞で半身不随となった父が1年ほどの入院・リハビリの後、転院を求められたことだ

▼症状が定着し、治療効果が見込めない場合、ベッドの状態に関わりなく同一病院で入院継続できないのが国の方針という。それから10年ほど後の平成18年のリハビリ医療「最長180日」の診療報酬改定について、やはり重度の脳梗塞でリハビリ中だった免疫学者・多田富雄が「死の宣告」だと新聞に投書していた

▼1年余のこの世界的泰斗の闘争もほとんど無駄だったと後述している。医療費削減の目標でジリッ、ジリッと患者を死に追いやり、代替策ともいうべき中間施設は医療と福祉という国の担当部門の違いで機能せず、結果的に病院の体力も削ぐ流れが現在も進行中なのだろう。病院の再編・統合もその一環で、コロナ禍を想定していたかの問いに誰もが口をつぐむ

▼県の対策本部員会議では「あまり考えたくはない」としていた入院か自宅待機かの〝選別〟を確認した。軽症から重篤に至る特性など想定内にはできまい。