伊勢新聞

<1年を振り返って>尾鷲・広域ごみ処理施設 建設予定地で

【東紀州5市町の首長が広域ごみ処理施設の建設予定地として位置づけた尾鷲市営野球場=同市矢浜真砂で】

三重県の東紀州5市町が尾鷲市内で建設を予定している広域ごみ処理施設。5市町長は11月にあった首長会議で尾鷲市矢浜真砂の市営野球場を施設の建設予定地とし、一部事務組合を設立することで合意した。建設予定地を巡っては、津波浸水域にあることなどからなかなか合意できず、二転三転していた。その一方で「市営野球場を広域ごみ処理施設の予定地として検討している」と、いきなり告げられたとして、市営野球場付近の事業者は市への不信感を募らせている。

5市町でのごみ処理施設の建設に向けての取り組みは、平成24年度から始まった。広域で取り組むことで、ダイオキシンの削減など環境に与える影響を低減したり、施設の建設費を抑制できたりするメリットがある。

ごみ処理施設の老朽化や昨年の県企業庁のRDF焼却発電施設の終了など、各市町の代替施設の更新が課題となる中、施設の建設地の面積が確保できず、予定地が決まらなかった。

建設予定地の選定は水面下で進められ、尾鷲市は30年2月、建設予定地に中部電力尾鷲三田火力発電所を検討していると明らかにした。同年11月には高さ58メートルのボイラー施設と30メートルの3号本館、両施設に隣接する定期点検用地を含めた区域を建設予定地として検討していると発表。同年12月、発電所は廃止された。

ところが、発電所内のボイラー施設と3号本館は、はりと杭が使えないことや、盛り土工事などに多額の費用がかかることが判明。このため、中電が所有する尾鷲市矢浜の燃料基地用地を建設予定地として新たに追加するが、盛り土などの付帯工事に多額の費用がかかるため、尾鷲市以外の4市町から合意を得られず、選定していた2カ所を断念。同市は、市営野球場を建設予定地として検討すると発表した。

5市町の首長らは11月4日に開いた首長会議で、尾鷲市営野球場を施設の建設予定地として一部事務組合を設立することで合意。建設事業費は79億610万円で、一般財源と起債、国からの交付金で賄う方針。5市町の負担割合は均等割10%、人口割90%としている。

尾鷲市は代替の市営野球場の建設地を、発電所跡地とする方針を示しており、併せて避難場所も造る計画。避難施設整備費と合わせた建設事業費は最大で8億5千万円を見込み、5市町で負担する。

加藤千速市長は11月の市議会行政常任委員会で「来年4月の一部事務組合の設立に向けて努力していく」と述べた。その一方で、建設予定地を巡り、一部の市民からは「不信感しかない」という声が上がっている。

市営野球場の近くで健康食品加工会社を営む男性は取材に「市からは『市営野球場が広域ごみ処理施設の建設予定地となった』といきなり言われ、通告のように感じた」という。15年ほど前に移転して事業を始めており「目の前にごみ処理施設ができると信用問題となり経営に関わる」と訴える。

男性は「人口減を考えると広域でごみ処理施設を運営するのは理解できる」とし、「市に市営野球場を選定した理由を聞くと、4市町から懇願されたからと言うのみで丁寧な説明もない。移転するにも費用が高く、(食品加工事業の)代替地の用意もない。市のやり方に不信感を持っている」と語る。

市は11月24―25日、市営野球場付近の事業者や関係者らを対象にした広域ごみ処理施設の説明会を開いた。5市町の首長会議で予定地が合意された後での説明会になったことについて、市の担当者は「正式に予定地として位置づけてからではないと説明ができないのでこのタイミングとなった」とし、「住民の方へは丁寧な説明をしていきたい」と話している。