伊勢新聞

<地球の片肺を守る>コロナパンデミック編 ウイルス閉じ込める熱帯雨林

【コンゴ民主共和国にしか生息していない絶滅危惧種ボノボ】

先日、コンゴ民主共和国で流行していたエボラ出血熱(第11次)に終息宣言が出されたことを、キンシャサの日本大使館からのメールで知りました。今回の流行による死者は55人。首都キンシャサと往来が盛んな赤道州での流行ということで、大変心配もしましたが、国連機関やコンゴ政府の対策が功を奏し、約半年で何とか終息させることができ、私もほっとした次第です。

このエボラ出血熱、最も危険な感染症の一つとして、日本でも知らない人はいないでしょう。しかし、その感染経路については、実は未だによくわかっていません。ただ、専門家の間で共通に理解されていることが2点あります。

一つは、1970年代にコンゴの村において初めて患者が確認されたこと(「エボラ」は第1号患者の村に流れる川の名前が由来)、もう一つは、野生動物や家畜など動物を介して人に感染したことです(人獣感染症)。

ご存じでしょうか。最近発生した感染症は人獣感染症が約7割を占め、1960年以降に流行した感染症のうち、その3割以上が土地の改変、すなわち自然破壊が原因となって発生しています。

「地球の片肺」と呼ばれ、ゴリラ、チンパンジーやオカピなど多くの野生動物の貴重な生息地となっているコンゴ盆地。このアフリカ大陸の中央部にかろうじて残っている熱帯雨林は、将来、パンデミックを引き起こすかも知れないウィルスを閉じ込める役目も担っているのです。しかし、大変ショッキングな事実ですが、このかけがえのないコンゴの原生林が、平均で1日にディズニーランド10個分以上、すなわち、1000ヘクタール以上のペースで消失し続けています。

エイズやエボラ出血熱、そして今回の新型コロナのパンデミックから真摯に学ぶことなく、今後もこれまでと同様の振る舞いで生態系を破壊し、資源搾取型の経済活動を続ける。そして、新たな感染症が発生すれば、何十万、何百万という死者を出し、政府が人々の生活を救済しながらワクチンが開発されるまで時を稼ぐ…そういった対処療法がベストの対感染症戦略でないことは、誰の目にも明らかでしょう。

国連のグテレス事務総長は、気候変動のスピーチで今年が記録的な気温上昇に見舞われたことに触れつつ「地球にはワクチンはない」と強く国際社会に訴えました。私たちが、アルコール消毒やマスクをして感染を予防するように、地球全体としても、これからは如何に感染症の発生リスクを低くしていくかという「予防」の視点が大変重要となってきます。そして、その一丁目一番地が、ウィルスの拡散、人間への伝播を防ぐための、熱帯雨林、そしてそこに棲む野生動物の保護ではないでしょうか。

先日、日本政府が温室効果ガスの排出を2050年までに実質的にゼロにすることを表明しました。アメリカの大統領選でもコロナ対策と並び、気候変動対策が最大の焦点の一つとなりました。こうした中、国連は来年の国際社会における最重要議題として「カーボンニュートラル」(温室効果ガスの排出実質ゼロ)を早々にセットしました。

「グリーン・リカバリー」、これは直訳すると「緑の回復」となります。生物多様性の保全や気候変動対策を積極的に進めることで、コロナ禍で落ち込んだ景気を回復させ、さらにはグローバルレベルでの感染症の予防策を進めていこうという一石三鳥の戦略です。

今回のコロナパンデミックを契機として、アフリカ最後の秘境と言われるコンゴ盆地を保全する意義は、ますます高まってくるでしょう。コンゴ環境省の政策アドバイザーとして、キンシャサでの職務に復帰後、環境大臣や次官などの政府高官に真っ先に何を訴え、何を最優先に取り組んでいくべきなのか、その「答え」は、既に私の目の前にはっきりと現れています。