伊勢新聞

2020年12月16日(水)

▼今年の一字を「伝」と鈴木英敬知事が発表した。時節柄、伝染病という言葉が頭に浮かんだが、知事は新型コロナウイルス感染症の「伝播」だと言う。文化などが広く伝わる場合に用いられる言葉だが、いわば文字遊びに独自の解釈や思いを一字に込めるのは文化の範囲ではある

▼感染症関連の情報を「伝える」ことに腐心した一年を表したとも言う。予測を裏切られたことが多かっただろうから心中察するに余りあるが、「県民に伝わるように伝えることの難しさも痛感した」。「難しさ」というより「拙さ」ではなかったか

▼きちんと記録にとどめてもらいたいのは、津市の診療所勤務の感染者の職業を「会社員」と公表したことだろう。前葉泰幸津市長に「相当に戸惑いを覚える」と指摘され、自身も「違和感がある」と事務方に告げた内幕を暴露せざるを得なかった。診療所の同意を得られなかったための失態で、今後は「どうしても必要なら県の判断での公表も」と語ったのは本心か、その場しのぎか

▼死亡者の公表ぶりが何となくおざなりなのだ。感染症法は「予防及び治療に必要な情報を積極的に公表」としている。個人情報の保護に留意する規定があるのは確かだが、個人情報保護法は死者を対象にしていない。匿名にした上ですべての予防、治療情報を隠ぺいすることが許されるのかどうか

▼はしかの感染源だった宗教団体の公表が遅れたため封じ込めに失敗したことを知事は昨年1月の会見で認め、公表の仕方について検討すると語った。違和感の中で揺れた今回の判断が、その形跡を見えなくしている。